一般的に多重露出というと、「人のシルエットにお花を重ねたりとか、そういうイメージが多いと思うんですが、それとは違う表現、自分流の『重ね』、みたいなものをつくっていった」。
■オリンパスPEN-Fとの出合い
フィルム時代は多重露出の写真を撮るには多少の経験が必要だったが、最近ではスマホのアプリを使えば簡単に多重露出の写真をつくれる。しかし、作品づくりになると、話はまったく異なる。
「多重露出で2、3点、面白い写真が撮れました、というのは誰にでもできると思うんですけれど、『これが自分の世界観だ』というところまで持っていくのはたいへんです」
最初のころは、「意味もない、変な絵になってしまうことが多かった。でも、だんだんと感覚がつかめてくると、納得できる作品がつくれるようになってきた」。
初個展「utopia」(2018年)までの5年間は試行錯誤を繰り返し、作品を練り上げてきた。
一方、画像処理ソフトのPhotoshopなど、デジタル技術を使えば「何でもできてしまいますから、やりすぎないように、カメラ内の機能だけで多重露出を完結する。そういう線引きをしてきた」。
そのカメラというのがオリンパスPEN-Fで、多重露出の機能だけでなく、「色を自由にコントロールできるところが魅力的で、自分の好きな色、思うような色に設定できる」。
「以前はオリンパスの別のカメラ(OM-D)を使っていたんですけれど、PEN-Fの発売(16年)と同時に乗り換えちゃいました。自分が思い描くイメージを具現化するのにPEN-Fに備わっている機能がいちばん合っていたんです」
■重ね合わせに「記憶」を感じる
市ノ川さんは花や自然の風景が好きと言う。それに向けてシャッターを切ると、肉眼では見えない、写真ならでは美しい世界が立ち上がってくる。
「撮影の際は、一枚の写真としてきちんと完成するように撮っています。その写真をさらに重ね合わせることで、別の美しさが表れてくる」