写真家・中山博喜さんの作品展「水を招く」が5月27日から東京・新宿のリコーイメージングスクエア東京で開催される。中山さんに聞いた。
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荒々しい岩石の散らばる砂漠を背景に人々の姿が写っている。
展示作品にはカラーとモノクロの写真が入り混じっているのだが、当初、中山さんはこのカラー写真を発表するつもりはまったくなかったという。
「カラーは、ある意味、ごく私的な写真として撮ったので、中村哲さんが写っていたとも言えるんです。モノクロ写真には中村さんを写したものは1カットもない」
■なぜこの写真を発表しないんだ?
ご存じの方も多いと思うが、医師である中村哲さんは、パキスタンとアフガニスタンにまたがる地域で40年ちかく人道支援に取り組んできた。
ところが、2019年12月4日、アフガニスタン東部の都市、ジャララバードを車で移動中、何者かに銃撃され、中村さんや運転手ら計6人が亡くなった。
このニュースはいまでもはっきりと覚えている。(なぜ、これほど現地の人々に尽くした人が殺されなければならないのだろう)と思った。多くの人が同じような思いを抱いたのではないだろうか。
カラー写真にはショベルカーを操り、川床を掘る中村医師の姿が写っている。完成した水路の底に立ち、地元の人々といっしょに流れくる水をじっと見つめる中村医師の後ろ姿。
これらの写真を中山さんは「人に見せる目的では撮っていなかった。趣味ですね」と言う。ただ身のまわりの出来事を写したスナップ写真のつもりだった。
ところが、中村医師の葬儀に参列し、かつていっしょに働いた仲間たちに、プリントした写真を思い出として渡したときのことだった。
「『なぜ、この写真を発表しないんだ?』みたいなことを言われたんです。ぼくからすると、これは外に出す目的ではない、いわば『家族写真』として認識していたんです。でも、そうではないんじゃないか、みたいに言われて、(えっ?)と思ったのが今回の写真展の始まりなんです」