撮影:小野悠介
撮影:小野悠介
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 写真家・小野悠介さんの作品展「太陽と月の下」が3月16日から東京・新宿のニコンプラザ東京 ニコンサロンで開催される。小野さんに聞いた。

【写真】小野悠介さんの展示作品

 個展案内の写真の中でたくさんの紫色の花が輝いている。朝日を浴びた小さな畑。そこに髭をたくわえた長い髪の男が腰を下ろし、赤いはさみで花穂を一つひとつ丁寧に切り取っている。頭に巻かれた花と同じ色のバンダナ。雰囲気のある、絵になる人だな、と思った。

 写真展は新潟県十日町松之山で自然の循環のなかで暮らすことを意識しながら「ホーリーバジル」を育てる嶋村彰さんを追った作品。嶋村さんの暮らしを幹に、家族や地域の人々の枝葉が広がっている。

 ホーリーバジルは熱帯原産のハーブの一種で、「神目箒(かみめぼうき)」とも呼ばれ、嶋村さんはこれを栽培するだけでなく、茶やスパイスに加工して販売している。

撮影:小野悠介
撮影:小野悠介

紫色の花が一面に咲く景色に出合って感動。生産農家に転身

 松之山は美しい棚田で知られる地域で、ブナのすらりとした幹が立ち並ぶ「美人林」や、「日本三大薬湯」の一つ、松之山温泉がある。冬になると例年3メートル以上も雪が積もる豪雪地帯でもある。

「写真好きのおじさんがよく来ていますね。ほんとうに里山という言葉が似あうところです」

 もともと、嶋村さんは埼玉県出身で、高校卒業後はスノーボード好きが興じて新潟県長岡市に移住した。しかし、数年後に新潟県中越地震で被災。仮設住宅で暮らした後にアジアを放浪し、帰国後は山小屋や森林組合で働いた。

 松之山に腰を落ち着けたのは10年ほど前。十日町市出身の真友子さんと結婚。黒倉集落の古民家を改築して暮らし始めた。冬は道路までの除雪がひと苦労だが、越後三山が望める高台で、日の出とともに朝日の当たる素敵な場所だ。

 当初は森林整備などの仕事をしていたが、長野県大鹿村でホーリーバジルの紫色の花が一面に咲く景色に出合って感動。松之山にも「この風景をつくりたい」と、自宅の庭に植えた。それが茶葉になると知り、販売を始めたことがきっかけとなり、いつの間にか生産農家になった。

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撮ったら絶対面白いことがありそう