デジタルカメラが本格的に普及して約13年が経とうとする。思えばたった12年前はまだまだフィルムを使って撮影していたのだ。そんな記憶もはるか遠い彼方のような錯覚を覚えるほど、デジタルカメラの進化は急速だった。いまでは、当時のフィルムのなんとも言えないノストラジックな雰囲気を求める20代の写真愛好家が多いと聞く。
※本来のフィルム名は『コダクローム』ですが、写真展のタイトルを尊重して『コダックローム』の表記にしてあります。
そんな人におすすめなのが、写真家・小竹直人氏が手掛ける写真展「鶴田裕 写真展 鉄道写真 昭和29年-昭和33年~蘇るコダックロームの記録と記憶~」だ。
この展示では、タイトルにあるように戦後の日本を代表する鉄道のありのままを撮影した貴重な写真が展示される。また、当時としては非常に珍しいカラーポジフィルムで撮影されているのだ。
撮影者である鶴田氏は、コダックロームを愛用。当時、進駐軍が放出したものを御徒町で購入したという。このコダックロームは、当時かけそばが1杯30円ほどで購入できた時代に、現像代も含めるとなんと1本800円もする品物だった。高額なフィルムを使ってまで撮影したいという鶴田氏の熱意に脱帽する。当時コダックロームは日本で現像できず、わざわざハワイにフィルムを送り、現像処理した。手元に戻ってくるまでに、約2カ月の時間を有したという。
撮影で使われたカメラの機種名を忘れてしまったとのことだが、おそらく1953年に発売されたオリンパス35lVa(40mmF3.5)と1954年に発売されたドイツコダックが製造販売したレチナIIc(50mmF2.8)だと小竹氏は話す。約67年も前にカラーフィルムで鉄道写真を撮影することは、非常に困難な撮影条件であったと推測できる。なんせフィルムの感度はISO10程度であり、現在販売しているようなISO100や400のフィルムは存在しない。
小竹氏いわく、「快晴ならレチナの50mmF2.8で、1/250秒のシャッターで切れますが、走行列車をギリギリ止められるスピードです。曇天なら1/60秒か1/30秒に落ちます。鶴田氏が珍しい車両を前にしながら、条件が整わず苦労されたことは容易に想像つきますね」。