この写真展を行う際に直面した問題点は、どうデジタル化するかであった。長年の間に傷つき経年劣化したフィルムをどう復元するか。どのようにして当時のイメージをそのまま残した状態でデジタル画像にしていくのか……しかし、その憂いはコダックロームの品質の高さに救われる。フィルムの退色はほとんどなかったのだ。同じ時期に撮られた富士フイルムやさくらフィルムは若干の退色があり、エクタクロームは色が完全に抜けてしまっていた。いずれもデジタルスキャン後の色補正によって当時の色を再現することになった。恐るべし、コダックローム。
苦労の甲斐があって、当時の懐かしい鉄道写真は見事に復元された。当時の空気感をしっかりと感じ取れるように、プリントにも細心の注意を払った。こうして現代に蘇るポジフィルムにはどこか魂を感じる。それこそ後世に当時の記録と記憶を残しておきたいという思いで、意欲的に撮影を続けた鶴田氏の情熱を感じる。写真家とは歴史を後世に残せる「歴史家」なのかもしれない。
(文・オオガイアツシ/アサヒカメラ)
【MEMO】
鶴田裕 写真展
「鉄道写真 昭和29年-昭和33年」
~蘇るコダックロームの記録と記憶~
2021年3月11日~3月23日
11:00~19:00(最終日は16:00まで)
ギャラリー路草
協賛:田島ルーフィンググループ