カメラの進化が動く鉄道の見せ方を変えていく
一方、列車や関連設備を幾何学的な造形に着目した作品とは異なる、抽象的なイメージの作品も展示する。
「こちらは造形を見せる、というよりも疾走感ですね。『スピード』というものの抽象的表現。例えば、新幹線といえばスピード、スピードといえば新幹線みたいな」
真っ黒な背景に浮かび上がる東海道新幹線。超低速シャッターによる流し撮りで、シャープな感じではなく、躍動するように写している。
それとは対照的に、真っ白な背景で写したのが秋田新幹線。
「これはくまなく雪が積もっているところを撮っています。さっきの真っ黒な写真よりも、こちらのほうが撮る条件としては難しいです」
黒と白を基調とした新幹線の作品に対して、「これは、色を持ってきた写真です」と言うのが、新緑のなかを走る西武鉄道のニューレッドアロー。「先ほどのラビューの先代の特急電車です」。
画面いっぱいに流れる緑なかで、列車がその存在感をアピールしている。車体が姿がくっきりと見えるのは先頭車両のオデコや屋根の部分にくっきりとしたコントラストあるからだ。
「流し撮りは、空が白っぽかったり、天気が悪いときによくやるんですけど、意外と日差しのあるコントラストが強いときにやるのも面白いなと。この写真でその楽しさに気づきました」
そして最後の写真は……こりゃなんだ? あまりにも大胆な流し撮りで何が写っているのか、よくわからない。
山下さんいわく「水槽を漂うナマズのような、光を放つ深海魚のような」(笑)。
雪の舞う夜を疾走する列車をほぼ真上から、止まりそうもないようなシャッター速度で流し撮りをしている。最新鋭のデジタルカメラの強力な手ブレ補正は極端なスローシャッターに挑戦させてくれる。撮影機材の進化が動く鉄道の見せ方を変えているのだ。
「見た人は、おそらく鉄道なんだろうけれど、と。それくらいの理解でいいんです。この車両が何であるかはそれほど重要ではなくて、ぼくが鉄道の世界を表現するうちの一枚なんです」
(文・アサヒカメラ 米倉昭仁)
【MEMO】山下大祐写真展「描く鉄道。」
オリンパスギャラリー東京
2月4日~2月15日