志村けんさんが亡くなったころ「ドリフごっこ」をやった
実際に写してみると、いつも撮っていた家の中だけど、いつも以上に時間があり、いつもとは違う光のなかで撮影することができた。ふつうの家の中で何ができるのかを考え、面白い場所を探した。
写真展案内に使った作品もそんな一枚。画面の真ん中に顔が写っているのだが、鼻から下の部分が何やら白いもので隠れ、背景も真っ白。家の中でどうやって写したのか、まったく想像がつかない。
「手前にあるのはベッドなんですよ」「ああ、なるほど!」。種明かしをされれば、それまでのことなのだが、写真の持つ力の不思議さを改めて感じる。
2枚のガラスサッシの間に入り込み、画面の左右に反射した像が写り込んだような写真も謎めいている。最初は合成写真だと思ったのだが、「家が線路の横にあるので、実際に二重サッシなんです。まだ小さいからその中に入れるのも魅力かなと」。
これまでほとんど行ったことのなかったマンションに屋上にも出てみた。
「屋上で何ができるかな、と思って、いろいろなことをやりました。なわとび、ドリフごっことか。志村けんさんが亡くなったころ、YouTubeを見て、屋上でヒゲダンスの練習をしたんです。あの音楽が流れると、娘の体が動き出します。雨上がりだと、水が薄く張った屋上の床に娘の姿が映り込んで、ウユニ塩湖みたい」
屋上にある物干しをバックに、女の子が指先を向けた先にはいく筋もの飛行機雲が写っている。航空自衛隊の曲技飛行チーム「ブルーインパルス」だ。
1日1000枚超えるなんてざら、みたいな日々
撮影の期間中、娘は4歳の誕生日を迎えた。うれしそうにケーキにローソクを立てる姿も、もちろんカメラに収めている。
パソコンの画面をライティングに使い、スタジオの光源で写したようにシンプルに見せた作品もあれば、ご飯どきのような生活感あふれる写真もある。
「ただ撮るのではなく。部屋の中をどうやって見せたらいいかなと、そればかりを考えていた毎日でした。ほんとうにほかにやることがないので、朝から晩までずっと写真ばかり撮っていた。1日1000枚超えるなんてざら、みたいな日々。屋上でなわとびなんかやったら、もうとんでもないことに。もっといいのが撮れるんじゃないかなと思って」
「そんなに毎日たくさん撮って、娘さんから嫌がられませんでしたか?」
「そういうことは、ないと思います」と、きっぱり。
タイトルこそ、「いつものいえ」だが、緊急事態宣言が発令された、当たり前だった日常が当たり前じゃなくった日々。仕事がぱたりとなくなった「おとーたん」と、休園になった保育園の娘の記録だ。
(文・アサヒカメラ 米倉昭仁)
【MEMO】小澤太一写真展「いつものいえ」
Roonee 247 Fine Arts 12月1日~12月6日開催。