
行き詰まって、海に背を向けた景色も撮ってみた
その後、「10年住んでいるんだから、そろそろなんか撮らなきゃ、と思って、がんばって写したのが、波だけを撮ったシリーズ」、「潮彩」(09年)と「くろしお」(10年)だった。
「でも、結局、波ばかり撮っても、ぜんぜん広がらない。撮っているときは面白かったんですけれど、これで新しい作品を発表できるかというと、そんな将来性は感じられなかった。で、行き詰った」
そして、「新規開拓じゃあ、ないですけど」と、始めたのが、「海ではなく、海辺の風土」を撮ることだった。
写真展「九十九里」(12年)では、御宿から北に離れた九十九里浜と周囲の風景にカメラを向けた。
「海に対して真正面じゃなくて、90度、もしくは海に背を向けた景色も撮ってみた」
ちなみに昨年の個展「風と土」ではアイルランド、大西洋に突き出た「ディングル半島で、日本にはない気候や地形、そういう風土に引かれて撮影した」。
そして、今回の写真展のテーマも「風土」である。「また身近な海辺を撮ってみよう」という原点回帰。先の「『九十九里』のちょっと続編」でもある。
「四方を海に囲まれた日本の風土を写真で表現する、ということで海辺を撮る。漁船の形も海外のものとは違うし、建物とか、まつりとか、人の生活感が感じられるものを1年間撮り続けたら、どうなるのかな、と」スタートした。
フェリーを降りたらすぐに猫たちが出迎えてくれた「猫の島」
写真展会場では連載された13のエピソードごとにエッセーのパネルが設置され、それを囲むように写真が配置される。
冒頭は通い慣れた九十九里の浜辺。
「東京オリンピックのサーフィン競技会場になるということで、その周辺を撮ったんです」
その隣は島根県から京都府にかけての日本海沿いで写した作品。この場所を写した理由を聞くと、「ぼく、写真で大切なのは『陰』だと口癖のように言っているんです。『影』が光が物に遮られて背後に映し出される暗い部分なのに対して、『陰』は物自体に生じる光の当たらない暗い部分。『山陰の陰』だと、説明することが多いので、山陰について調べているうちに、じゃあ、行ってみようとなりました」。
「猫の島」もある。撮影地は岡嶋さんの故郷、福岡県の相島と姫島。どちらもフェリーを降りたらすぐに猫たちが出迎えてくれた。
東京・葛西臨海公園周辺で写した作品は、新型コロナの影響で街から人影が薄くなったころのもの。
「八丁堀に東京の仕事場があるんですが、桜の時期だから、海辺の桜を撮りに行きたいなあ、思っていたんです。でも、新型コロナでカメラを持って出歩ける雰囲気じゃなかった。葛西臨海公園に始発電車で行って、人が来る前に桜を見つけて撮りました」
モノクロ写真で構成されたパートもある。こちらは撮影地がばらばらで、地元・御宿の海岸もあれば、京都府・丹後半島の舟屋もある。
「このときに書いたエッセーが江戸時代に日本全国の海岸線を歩いて測量し、日本地図をつくった伊能忠敬についてだったんです。それで、写真はモノクロがいいな、と」

いまだったらこういうふうに撮れるとか、いろいろなことが見えてきた
岡嶋さんはこれまでの作品づくりについて、「とにかく目新しいものを、という感じだった。飽きっぽいから、あっち撮ったりこっちを撮ったり」と、振り返る。
「今回、結果的によかったのは、新型コロナで自宅で写真の整理とかをしているうちに、もう一回これに取り組んでみたいなとか、当時は行き詰って無理だったのが、いまだったらこういうふうに撮れるとか、いろいろなことが見えてきた」
最近、また波を撮り始めた。「海のほとり」シリーズはこれからも撮り続けるという。「『令和の伊能忠敬』を目指して」、日本中の海辺を訪れ、撮影するつもりだ。
(文・アサヒカメラ 米倉昭仁)
【MEMO】岡嶋和幸写真展「海のほとり」
エプサイトギャラリー(東京・丸の内)10月2日~10月29日
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