新型コロナウイルスの感染者が初めて確認されたのは、中国・武漢の「華南海鮮卸売市場」。著者は共同通信社の中国総局デスクとして、都市封鎖される直前の武漢を訪れていた。本書は、2カ月半に及ぶ武漢の封鎖とその後の世界の動向を、北京駐在記者の目で生々しく記録した渾身のドキュメントである。

 世の中は依然、コロナ禍の渦中にあるが、発端がどういうものであったのか、その後の感染拡大の背景にどんな問題があったのかは、すでに見えはじめている。中国当局の初動に遅れがあったこと、情報統制が事態の悪化に竿をさしたこと。「中国寄り」と批判されたWHOの姿勢。そこに米中対立の深刻化がからみ、泥仕合の様相を呈してきたこと。

 なおも続く異常事態を生き抜くに際して、これまでの経緯を一度整理しておくためにぜひ目を通しておきたい一冊だ。(平山瑞穂)

週刊朝日  2020年10月2日号