時折、いたずらな目で笑う。創業メンバーは言う。「広津は、夢を実現する近道は何?と。それしか考えていない」(撮影/伊ケ崎忍)
時折、いたずらな目で笑う。創業メンバーは言う。「広津は、夢を実現する近道は何?と。それしか考えていない」(撮影/伊ケ崎忍)
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今年1月、広津は稼働を始めた「N-NOSE」の検査センター(東京都日野市)を視察。室内には、検査の処理能力を高めるために導入された自動解析装置が並ぶ。この日、部屋の一角では、新人研修も行われていた(撮影/伊ケ崎忍)
今年1月、広津は稼働を始めた「N-NOSE」の検査センター(東京都日野市)を視察。室内には、検査の処理能力を高めるために導入された自動解析装置が並ぶ。この日、部屋の一角では、新人研修も行われていた(撮影/伊ケ崎忍)
いざ起業に踏み出してみたら、「自分に向いている世界があった」と実感。「『起業なんて、思い切った』と言われるけれど、同じ人生を何度歩んだとしても、岐路に立ち、同じ決断をしたと思う」(撮影/伊ケ崎忍)
いざ起業に踏み出してみたら、「自分に向いている世界があった」と実感。「『起業なんて、思い切った』と言われるけれど、同じ人生を何度歩んだとしても、岐路に立ち、同じ決断をしたと思う」(撮影/伊ケ崎忍)
経営書の類いは読まず、「常に、教科書に書かれていない方法を探す」。研究も、経営も、「大きく育てられるポイントはここ」と見定める「嗅覚」が大事だという(撮影/伊ケ崎忍)
経営書の類いは読まず、「常に、教科書に書かれていない方法を探す」。研究も、経営も、「大きく育てられるポイントはここ」と見定める「嗅覚」が大事だという(撮影/伊ケ崎忍)

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 今年1月、これまでとはまったく違う新しいがん検査が実用化し、大きな話題となった。それは「線虫」を使った検査。線虫はがんにかかった人の尿には寄っていき、かかっていない人の尿からは離れていく。線虫の行動を利用して、がんの有無を見分ける。実用化にこぎつけた広津崇亮は、線虫の研究者でもある。金儲けのためではない。もっと技術を広めたいのだと力をこめる。

 今年1月、広津崇亮(ひろつ・たかあき 47)が社長を務める東京都港区の「HIROTSUバイオサイエンス」は、世界初の“線虫がん検査”である「N-NOSE(エヌ・ノーズ)」を実用化した。

 それは、「線虫」を使う検査。体長約1ミリの、ニョロニョロとうごめく「C.elegans(シーエレガンス)」という名の線虫である。

 検査方法は、実にシンプルだ。尿1滴をシャーレに垂らし、線虫を置くと、がんである人の尿だと、寄っていく。がんではない人の尿だと、離れていく――。これは、好きな匂いに寄っていく「誘引行動」と、嫌いな匂いから逃げる「忌避行動」という、線虫特有の行動を生かして、がんの有無を見分ける検査なのだ。今のところ、胃、大腸、肺、乳、膵臓(すいぞう)、肝臓、子宮、前立腺など、15種のがんの人の尿に反応するとわかっている。

 精度も高い。約3千例を解析した2019年12月末の段階で、がんである人をがんだと判定する「感度」は82・9%。がんでない人をがんではないと判定する「特異度」は85・5%。がんのステージ(病期)ごとの感度は、ステージ0、1という早期の段階で87%と、良好な結果が得られている。

「常識に囚(とら)われず、がん検査の仕組みや、人々のがんに対する意識そのものを変えたい」

 こう話す広津は、線虫検査を、がんの早期発見につなげる「1次スクリーニング検査」と位置づける。受けた結果、がんのリスクが高いと判定された人が、2次スクリーニング検査として「5大がん検診」を受け、がん種を特定する。そんな検査の流れを新たに作りたいのだと言う。

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