付き合いのある事業主が経営するカフェバーで談笑する三宅。社員が辞めない会社は家族のような空気感があり、誰かが話を聴こうとする。互いが向き合おうとすれば会社はよくなると信じる(撮影/大野洋介)
付き合いのある事業主が経営するカフェバーで談笑する三宅。社員が辞めない会社は家族のような空気感があり、誰かが話を聴こうとする。互いが向き合おうとすれば会社はよくなると信じる(撮影/大野洋介)

■尊敬しつつ嫌いな両親、酒に夜遊びと非行に走る

 そんな三宅を「とにかく偉大な人」と表現するのは、「Chance!!」で求人募集をする大伸ワークサポート代表の廣瀬伸恵(40)だ。覚醒剤所持で2度服役。2度目に獄中出産した廣瀬は「自分は子どもがいたから立ち直れた。知り合いはみんなまだ刑務所にいる」。

 やり直せる人とそうでない人の違いを「ここ(会社)が自分の居場所だと思えるかどうか。とにかく孤独にさせてはいけない」と言う廣瀬は、7人ほどの全社員の夕食を毎日作り、一緒に食べる。廣瀬の手料理に涙を流さんばかりに喜ぶのに、数日後は荷物を置いたまま突然いなくなる人もいる。

「裏切られても信じ続けるしかないよねって、三宅さんにいつも励まされる」

 同社に採用された30代男性は両親が離婚。心が不安定になり不登校に。高校に行かず溶接工として働いたが、人間関係のストレスから罪を犯し刑務所へ。服役後、母親に身元引き受けを頼んだら「家に戻ってくるな」とにべもなかった。更生保護施設を経て解体の仕事に就いたが、周囲に不満を募らせ窃盗で捕まった。

 舞い戻った刑務所で、同部屋だった受刑者に「Chance!!」があることを教えてもらう。廣瀬と三宅両方に手紙を書いたら、それぞれ返事をもらった。出所の際、廣瀬が車で片道4時間かかる刑務所まで迎えにきてくれたのには驚いた。

「僕なんて社会から見放された人間じゃないですか。それなのに、こうやって仕事ができて、毎日みんなとご飯食べて、愚痴とか話を聞いてもらえる。今までの人生で一番幸せです」

 そう話す男性は、三宅の言葉を支えに生きる。

「世の中で差別されていい人なんてひとりもいない。自分の過去が、価値に変わる日が必ず来る。本気で変わりたいと思えば、人は変われるよ」

 このことを、三宅は身をもって知っている。

 新潟県に生まれ、両親ともに地方銀行に勤務。母・毬子(まりこ)は勤務する銀行を相手取り、男女間の賃金格差の是正を訴える「男女差別裁判」を起こして勝訴。三宅によると、1986年に施行される男女雇用機会均等法への流れを作った裁判だ。父・茂は「定年制延長裁判」を11年闘って敗れたものの、現代の雇用制度の源流になった。

 知性と教養、正義感あふれる両親を、三宅は心から尊敬していた。が、何しろ忙しい。会議や仕事でほとんど家にいない。食事を作ってくれるのも、参観日に学校に来るのも父方の祖母。11歳年上の姉・泉(59)は頭脳明晰でやさしかったが、三宅が小学3年生のときに上京してしまう。

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