「東池袋大勝軒」の山岸一雄さん(右)と橋本さん(筆者撮影)
「東池袋大勝軒」の山岸一雄さん(右)と橋本さん(筆者撮影)

 3カ月間物件探しをして、場所は中野に決めた。「東池袋大勝軒」の山岸さんが独立前に働いていた場所でもあり、大好きな「青葉」もある中野。動物+魚介が流行った土壌もあるので、自分のラーメンも受け入れられるのではないかと思ったという。

 こうして17年2月「麺屋 はし本」はオープンした。駅から徒歩10分とやや遠いが、夕方までの通し営業にすることで、ランチタイム後の需要にも対応し、駅前から足を運んでもらう工夫をした。

 だが、オープン時は1日60~70杯ペース。数字は悪くはないものの、不安な日々が続いていた。オープンから3~4カ月経った頃、ある人が店を訪れる。「はやし」の林さんだった。

「飽きない一杯を作りたいのなら、もっとあっさりにした方がいいとアドバイスをいただきました。無化調に挑戦しようと決めたのも、林さんがきっかけです。開店から1年は化学調味料を使っていましたが、林さんにも相談に乗っていただき、自分なりに改良して無化調に進化させました」(橋本さん)

 少しずつ口コミも広がり、今は平日で1日110杯の売り上げがある。動物+魚介系はラーメン業界のメインストリームではないが、確かな美味しさで「はし本」は見事名店の仲間入りを果たした。

「はやし」の林さんは、橋本さんを職人として高く評価している。

「真面目に一人でラーメンに向き合っていますね。逆ベクトルのラーメンが流行っている今、よくこのラーメンを出してきたと感心しています。有名店を渡り歩きながらあの味に辿り着いたのはうれしいですね。こういう職人がこれからも増えてくれればいいなと思います」(林さん)

 橋本さんのラーメン職人としての歩みは、林さんなくしてはあり得ない。

「憧れの人が気にかけてくださって本当にうれしいです。いつ食べても美味しく、何度食べても衝撃を受けます。今も自分の目標の人ですね」(橋本さん)

 美味しいラーメンは流行とは関係なく残っていく。自分のラーメンを愚直にブラッシュアップする「はやし」へのリスペクトを胸に、「はし本」はさらなる高みを目指す。(ラーメンライター・井手隊長)

○井手隊長(いでたいちょう)/大学3年生からラーメンの食べ歩きを始めて18年。当時からノートに感想を書きため、現在はブログやSNS、ネット番組で情報を発信。イベントMCやコンテストの審査員、コメンテーターとしてメディアにも出演する。AERAオンラインで「ラーメン名店クロニクル」を連載中。Twitterは@idetaicho

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