■日比谷濠を背景にした黄昏の都電
最後のカットが、晴海通りを桜田門方面から日比谷公園にやってくる11系統と9系統の都電だ。黄昏が迫る画面右側には、日比谷濠と江戸城の石垣が写っている。この光景は1968年9月に都電が廃止されたことを除けば十年一日で、現在もほぼ不変である。
かつて日比谷交差点を賑わせた都電にかわって、日比谷地区には地下鉄網が縦横無尽に走っている。日比谷の名を冠した東京メトロ・日比谷線が晴海通りの真下を走り、日比谷通りの下は東京メトロ・千代田線と都営地下鉄・三田線が並走して走る。少し位置がずれるが、日比谷濠の下を東京メトロ・有楽町線、日比谷公園の中央を東京メトロ・丸の内線が横断している。
「もし都心部に都電が残っていたら」という仮説は、観光目的で走らせるのは別として、全くのノスタルジーだと思う。前述の地下鉄各線の輸送力を鑑みれば、路面電車の輸送力では逆立ちしても及ばないからである。
メガシティとなった東京の人の流れの凄さを実感している昨今だ。
■撮影:1964年1月1日
◯諸河 久(もろかわ・ひさし)
1947年生まれ。東京都出身。写真家。日本大学経済学部、東京写真専門学院(現・東京ビジュアルアーツ)卒業。鉄道雑誌のスタッフを経て「フリーカメラマンに。著書に「都電の消えた街」(大正出版)、「モノクロームの私鉄原風景」(交通新聞社)など。2019年11月に「モノクロームの軽便鉄道」をイカロス出版から上梓した。