組織に依存せず自立する
シェアの概念が腹落ちした
ピースメッセンジャーになるにはどうしたらいいか。子ども心に浮かんだのがジョン・レノンやマイケル・ジャクソン。アーティストになれば平和活動ができると考えた。幼いころからサンバ音楽で鍛えただけに踊りや歌が得意。高校時代はエイベックス・アーティストアカデミーに所属し活動したものの、周りは浜崎あゆみになりたい人ばかりで、平和を語れる仲間は皆無だった。
ちなみに、大学時代にミス・ユニバースに応募し、セミファイナリストになったのも、優勝すればアンジェリーナ・ジョリーのように平和活動ができると信じたからだ。だが芸能活動もミスコンも競争社会そのもので、平和とは無縁の世界だった。
高校2年の冬、一人でアウシュビッツを訪ねる。
虐殺された夥(おびただ)しいユダヤ人一人一人の遺恨を想像しながら、平和への希求をさらに強くする。
どうしたら世界平和を実現できるのか。悶々(もんもん)とする石山に、担任は「平和研究」の専修分野がある国際基督教大学(ICU)への進学を勧めた。だが大学で国際開発や紛争解決を学ぶうち、政治や経済のアプローチでは「誰一人取り残さない」という解決策を見いだすのは難しいことがはっきりと分かった。
そこで石山は、「あなたにとって平和とは何ですか」というスケッチブックを持って各国を回った。海外に留学する多くの友人も現地で同じ質問を投げかけてくれた。世界中から集まってきた答えは「愛」「家族」、あるいは「大事な人を大切にする」というシンプルなものだった。マザー・テレサがノーベル平和賞を受賞した際に「平和とは何か」と聞かれ「まず家に帰って家族を愛してください」と答えた言葉を改めて思い起こした。
また、大学時代、NHKの国際ディベート番組「プロジェクトWISDOM(ウィズダム)」でアルバイトをしながら、世界の若者たちの議論に接し、ロジカルな思考と発言力を磨いた。
「大学時代の活動を通し、人間にそもそも備わっている良心を掘り起こすことが、対立構造や境界線を越える糸口かもしれないと考え始めました」
大学を卒業後はマスコミを目指していたが、就活時期に海外にいたため、採用枠があったリクルートに就職。資本主義社会の最前線に放り込まれ、青臭い理想論は木っ端みじんに砕けそうになる。
だが、根っからのピースメッセンジャーは、格差を生む資本主義の正体を知るにはその懐に飛び込むのが早道と、リクナビの営業でがむしゃらに働いた。1年後には日清食品、大日本印刷、朝日新聞など多くの大手企業を担当するほどに実力をつけた。当時の上司で現在はナンバーズ代表取締役の千葉浩一(45)は、常識外れな部分と賢さが高い次元でバランスを保っているところが魅力だったという。
「遅刻はするわ、企画書も書けないという抜けた部分がある一方で、直接顧客企業の社長にアポを取り、話を進めてしまう大胆さがあった。入社当時から一企業の枠に収まり切れない人物だった」