「警察を呼ぶ」「データを消せ」。カメラを手にして歩いているだけで不審者扱いもされかねない時代。路上スナップ撮影を怖いと思っている人は少なくありません。もしも実際にトラブルに直面したら? 回避策は?『アサヒカメラ11月号』では、「スナップは怖くない」と銘打ち、8人の写真家が明かす設定や極意から、路上撮影トラブルの実践的対応術までを72ページに渡り大特集。
今回は、前回の記事「意外と知らない スナップショットの『基本形』」に続き、「スナップはすべての写真の基本」と語る写真家の大西みつぐさんが解説する“いまさら聞けない”スナップ撮影の基本編「カメラの選び方」をお届けします。
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スナップショットの意識のありようは、カメラによってとても大きな違いが生まれてきます。コンパクトカメラを手に街を疾走するのと、大きな一眼レフを持って街を疾走するのでは気持ちも行動もぜんぜん違います。
例えば、森山大道さんは小さなカメラでスナップ写真を写しています。カメラというものの存在を消したうえで、路地のにおい、ざらざら感とか、生理的に被写体の感触を確かめるようにイメージして、街をスクラッチするように撮っている。それにはやはり、小さなカメラが適していると思います。
元田敬三さんのようにしっかりした中判カメラで「あなたを撮らせてほしい!」と、第三者にアピールしながら撮っている作家もいます。大きなカメラを使うことで自分の立ち位置を定める。そこに明快さがあるわけです。たぶん、そこに写る人たちにも、「よし、写ってやろうじゃないか」みたいな覚悟ができ、濃密なスナップショットの時間が生まれてくる。
須田一政さんはカメラにこだわりのない人でした。超小型の「スパイカメラ」ミノックス、正統派のライカ、中判のマキナやハッセルブラッドと、いろいろなカメラを使うけれど、次の作品づくりに移るときは完全にカメラを変えてしまう。それで辻斬りのようにスパッと撮っておしまい。切れ味がいいわけです。