■大きなカメラでぐいぐい 小さなカメラですいすい

 ぼくは写真を始めたときからライカの性能のよさをずっと言われてきました。でも、学生時代は買えなくて、一眼レフでスナップ写真を撮らざるを得なかった。一眼レフでも十分にスナップショットが撮れるだろう、という思いもありました。

 当時、一眼レフはミノルタSRT101、ニコマートFTNなどを使っていました。

 昔もいまもそうですが、例えば浅草の三社祭とか、ストリートの催しの現場では一眼レフをかまえて、ぐいぐい入って撮っていく。深川の祭りなんか、自分でも神輿を担ぐわけですけれど、そのなかで撮るのも非常に得意です。運動感覚というか、身体感覚で、ボクシングのように前後に動きながら撮れる。それはもう、一眼レフの独壇場です。

 土田ヒロミさんもよく言っていましたが、「俺はいま、撮ってんだぞ」ということをきちんと周囲に表明して、撮っていける場面です。

 写真学生時代にそれを教えてくれたのは秋山忠右さん。「週刊朝日」「アサヒグラフ」で活躍した週刊誌ジャーナリズムに強い人です。1964年の東京オリンピックの柔道の候補だったくらいだから腕っぷしがいい。その秋山さんが「現場はぐぐっと、20ミリで入るんだよ」と言う。実際、祭りのような現場ではぐいぐい入っていったほうが撮れる。大きな一眼レフの存在感がすごく有効に働くわけです。

 一方、ぼくが木村伊兵衛写真賞を受賞した作品「遠い夏」の前後ではニコンFやF-301といった一眼レフも使いましたが、主力となったのは小さなライツミノルタCLと水中カメラのニコノスIV-Aでした。ニコノスを使った理由は非常に単純明快で、プールとか海の水っ気のある現場が多かったからです。日常的に、特に夏休みにあっちにぷらぷら、こっちにぷらぷらしているときには必ずライツミノルタCLを肩にしていました。こんな場合は小さなカメラが合うんです。

すいすい撮れる小さなカメラ(2)「リコーイメージングGR III」
すいすい撮れる小さなカメラ(2)「リコーイメージングGR III」

 要するに、昔もいまもスナップの現場で大きなカメラと小さなカメラを使い分けています。カメラによって気分や気持ちの持ちようが変わってくる。

東京・夢の島公園の熱帯植物館前でサンバの人たちが踊っていました。みなさんがふわふわっと出てきたとき、ついていって、ふわふわっと撮った写真です。広角レンズつきで軽快に撮れるコンパクトカメラならこうして、すーっと入っていけます■リコーイメージングGRIII・ISO800・250分の1秒・マイナス0.3補正(撮影/大西みつぐ)
東京・夢の島公園の熱帯植物館前でサンバの人たちが踊っていました。みなさんがふわふわっと出てきたとき、ついていって、ふわふわっと撮った写真です。広角レンズつきで軽快に撮れるコンパクトカメラならこうして、すーっと入っていけます■リコーイメージングGRIII・ISO800・250分の1秒・マイナス0.3補正(撮影/大西みつぐ)

 街を歩いて、いつも撮っていたいカメラって、やはり、すいすい写せる小型のカメラです。小さなカメラで撮っていると、大きなカメラでぐいぐい撮るのとはまたちょっと違って、ふーっと被写体に入り込んでいけちゃう感じがする。これは単なるカメラの軽さや形状による勝手な思い込みかもしれないですけれど。

 スマホで撮るよりもむしろコンパクトカメラで撮ったほうが目立たない。被写体といっしょにふわふわっとついていって撮れちゃう。それが小さなカメラの面白さ。自分の目の玉が手に載って移動していく感じで、撮り手の気配が消えちゃっている。

 例えば、新宿の薄暗い路地から出てきて、小さなカメラでパッと撮っても、「あっ、なんかおじさんがカメラを持って撮っている」くらいで、それほど気にならない。これが一眼レフだったら、「あっ、カメラマン!」「あんた、何撮ってんの!」って感じになってしまう。そのへんの被写体とカメラの相性はけっこう大事だな、と思っています。

 もちろん、一眼レフやコンパクトカメラだけでなく、ソニーや富士フイルムなどのAPS-C、パナソニックやオリンパスなどのマイクロフォーサーズのミラーレスカメラもスナップショットに適していると思います。

写真と文=大西みつぐ

※『アサヒカメラ』2019年11月号より抜粋