「最初に声をかけていただいたときは店の運営に夢中で、無意識に出店を断っていたようなんです。断ったことも覚えていないくらい、目の前のことしか見ていなかった。でも、二度も打診してくださって本当にうれしかった」(阪田さん)
東京駅を本店にしようと、都立家政の店は「食堂 七彩」と名前を変え、新たなラーメンにチャレンジすることにした。東京駅でオープンしたお店では観光客を始め、新たなファンの獲得に成功した。
「東京ラーメンストリート」の4年の契約を終え、「麺や 七彩」は現在八丁堀でお店を開いている。そして、この移転と同時に実現したのが“打ちたて麺”だ。
注文を受けてからその場で麺を打ち、打ちたて切りたての麺を茹でてラーメンにして仕上げるという前代未聞のチャレンジだった。そば打ちの技術を応用した製法で、打ちたてならではの小麦の香りと甘さを感じることができる。手打ちでしか出ない麺の食感も最高だ。
「日本で昔から大切にされてきた『手打ち』『手仕事』の文化を今後も残していきたいという思いから“打ちたて麺”を始めました。このお店を100年続けることで、新たな文化として『打ちたてのラーメン』を日本に根付かせたいと思っています」(阪田さん)
「ちばき屋」千葉さんは阪田さんのラーメンへの向き合い方を高く評価している。
「『七彩』の打ちたては、熟成させずに作る日本そば的な感覚の麺です。小麦の香りが引き立っていてとても美味しい。阪田さんはまさに職人。食としてのラーメンにきちんと向き合っていて、今後も残っていける店作りをしていますね」(千葉さん)
阪田さんも、レジェンド・千葉さんに敬意を抱いている。
「同じラーメンを繰り返し、繰り返しブラッシュアップしていったことで、他の人では到達できないところまでいったレジェンドですね。長く残る名店は人々から必要とされ、求められている証拠です。我々も後輩として負けずに頑張っていきます」(阪田さん)
27年突っ走ってきたレジェンドが愛するラーメンは100年後を見据えた一杯だった。2人とも一過性のブームではなく、長く続くもの、人々から必要とされるものにきちんと目を向けてラーメンを作っていることがわかる。先人からのバトンは確実に今に繋がっているのだ。(ラーメンライター・井手隊長)
○井手隊長(いでたいちょう)/大学3年生からラーメンの食べ歩きを始めて18年。当時からノートに感想を書きため、現在はブログやSNS、ネット番組で情報を発信。イベントMCやコンテストの審査員、コメンテーターとしてメディアにも出演する。AERAオンラインで「ラーメン名店クロニクル」を連載中。
※AERAオンライン限定記事