思春期特有の、モヤモヤとした感情。外に吐き出したいのに、言葉では吐き出せない。でも外に出さないと体のなかに溜まって、肉体を腐らせていくようないやな感覚。どうしようもない苛立ちに苦しめられた。弟・大史も振り返る。

「あのころは家に帰ってドアを開けるたびに、兄貴のものすごいわめき声が聞こえてきた。親、特に母親と、いろんなことでぶつかっていた」

 一人で家にいる時間が増えた。どんどん内向的になってしまう。どうしよう。沼に墜ちていくような感覚のなか、つかんだ藁が「写真」だった。

「映像と違って、写真は瞬間を切り取るもの。その前後の出来事も、枠の外になにがあるかも、見る人にわからない。その断定性のなさ、固定されないあいまいさが、なんとも表現できない自分の感情を落とし込むのにちょうどよかったんです」

●仕事をしてみたい相手へ積極的に自分を売り込む

 大学の写真サークルに入り、初めて「いいな」と思える女性に出会った。その人は友人の彼女だった。話したいけれど、話し方がわからない。そんななかで、東日本大震災が起こった。

 確かな未来なんてない。この世に何かを残しておきたい。いま一番、自分が感情を寄せている人を撮ろう。その人にモデルを頼み、撮影を始めた。だが、出来上がったものは何かが違った。

「『もっとこっちを見てほしい』みたいな自分の思いが生々しすぎたんです。しかも写真は嘘をつける。なんとなく相手とすごく近いように撮れていて、これは嘘だな、と思った」

 一度プリントしたものを複写したり、カーテンやクッションを挟んで撮影したり、被写体との距離感を作るさまざまな手法を試した。

 そして出来上がったのが作品集『Girl』だ。逆光のなか、触れられそうで触れられない、見えそうで見えない女性の顔。その「間」に心がツンとする。切なさが、見る人の心をかき立てる。作品を若手の登竜門である写真コンテスト「写真新世紀」に応募し、審査委員を務める写真家・ヒロミックス(42)の目にとまった。入賞の電話をもらったとき、「評価された」という思いより「伝わった!」という感情が込み上げた。

「自分にはこういう感情がある、景色がこう見えている。『わかりますか? この気持ち!』と投げかけたときに、『わかるよ』とヒロミックスさんに手を差し伸べてもらった気がした。ああ、伝わった!――それが僕の写真の原点なんです」

 受賞後、自らロックバンド・くるりの事務所に「撮らせてほしい」とメールをし、CDのジャケット写真を手がけた。「仕事をしてみたい」と思う相手には積極的に自分を売り込む。その姿勢は高校時代の映画作りで培われたようだ。「写真新世紀」を主催するキヤノンのCSR推進部・高橋淳子は言う。

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