見たことのないものを、見たい、見せたい。その真摯な姿が、多くの人を魅了する。写真展「白い光」の会場で(撮影/品田裕美)
見たことのないものを、見たい、見せたい。その真摯な姿が、多くの人を魅了する。写真展「白い光」の会場で(撮影/品田裕美)
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グレインハウスの寺屋とプリントの仕上がりを確かめる。雑誌の仕事でフィルム撮影を続ける奥山の存在は貴重だ。「フィルム撮影は一発勝負。その緊張感は、写真にも表れてくる」と寺屋は言う(撮影/品田裕美)
グレインハウスの寺屋とプリントの仕上がりを確かめる。雑誌の仕事でフィルム撮影を続ける奥山の存在は貴重だ。「フィルム撮影は一発勝負。その緊張感は、写真にも表れてくる」と寺屋は言う(撮影/品田裕美)
「never young beach」の新曲「STORY」のミュージックビデオの撮影現場で。500人の観客にiPhoneでライブを撮影してもらい、それを編集するというユニークな手法をとった。現場では自ら走り回り、スタッフをまとめる(撮影/品田裕美)
「never young beach」の新曲「STORY」のミュージックビデオの撮影現場で。500人の観客にiPhoneでライブを撮影してもらい、それを編集するというユニークな手法をとった。現場では自ら走り回り、スタッフをまとめる(撮影/品田裕美)
赤にも、青にも見える。そんな「ゆらぎ」を表現したい。でも2秒で伝わるものが正義だと思う自分もいる。複雑な二面性が作家性と商業性のバランスを生むのか(撮影/品田裕美)
赤にも、青にも見える。そんな「ゆらぎ」を表現したい。でも2秒で伝わるものが正義だと思う自分もいる。複雑な二面性が作家性と商業性のバランスを生むのか(撮影/品田裕美)

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 雑誌「GINZA」の表紙の撮影から、サカナクションのミュージックビデオ、ポカリスエットの広告。

 「いま」が宿る作品は、時代に敏感な人からひっぱりだこだ。「写ルンです」からiPhoneまで、アナログとデジタルを使いこなす。

 器用な人かと思いきや、奥山由之は愚直なまでにどう見せるかを考え抜く。懊悩の末に出来上がるからか。なぜか目が離せなくなる。

 会場は完全な闇だった。漁船のきしみや波の音がギーシ、ギーシ、タプン、タプンと聞こえてくる。小さなライトを手にお化け屋敷のような通路を歩くと、光の輪が壁の巨大な写真を浮かび上がらせる。その瞬間、ドキリとした。

 白い光が照らすギラギラとした魚の生々しさ。漁師のニカッとした笑顔。東京・品川で開催された写真展「白い光」。そこには奥山由之(おくやまよしゆき)(28)による、写真との新しい対峙の瞬間があった。

「いま巷にあふれるパソコンやスマホの写真は、どれも自ら発光している。でもプリントされた写真は、光をあてることで初めて見ることができる。今回の写真展では『写真を見る』という行為を、改めて意識してもらいたかったんです」

 そう話す奥山の口調は、やわらかだ。この青年はとにかく礼儀正しい。それに声がいい。人を説得し、納得させる落ち着いたトーン。

 20歳でデビューし、ファッション雑誌「GINZA」や「装苑」の表紙を飾り、サカナクションなどのミュージックビデオ、FUJIFILMやルミネの広告写真を手がけてきた。なによりその仕事は「おもしろいことを考えるなあ」と、常にこちらを驚かせる。しかもその「おもしろいこと」にはちゃんと意味がある。

 ロックバンド・never young beachのミュージックビデオ「お別れの歌」。人気俳優・小松菜奈をヒロインにiPhoneの縦長画面で撮影し、まるで本物の彼氏が撮ったような映像を創り上げた。いま人が撮る最もドキュメントな瞬間は、スマートフォンや携帯で切り取られると考えたからだ。

●どうしようもない苛立ち、つかんだ藁が「写真」だった

 いっぽうで写真作品はデジタル機材を使わず、フィルムで撮影し、プリントすることにこだわる。

 撮影したときの「熱」を一度冷まし、時間を置くことで、その写真を最初に見る人と同じ気持ちで写真と向き合える。それが大きな理由だ。

 ポカリスエットの広告では機動性の高い「写ルンです」を手に、300人の高校生のダンスレッスンのただ中に飛び込み、「青春」という商品の世界観を完璧に表現してみせた。なんだかわからないけれど、奥山の写真には「いま」としかいいようのないものがある。それが若者世代をはじめ、あらゆる人を魅了する。

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