「いやらしい意味ではなく、奥山君は『大人を動かせる人』。営業力もプレゼン力もある。なにより彼は『相手にまっすぐな気持ちをぶつけたときに、何かが起こる』という魔法を信じている。だから周囲も応援したくなるんです」

 それにしてもなぜ、奥山の写真はここまで多くの人に受け入れられるのか。写真批評家で京都造形芸術大学准教授の竹内万里子(46)は、奥山の写真と受け手の間に「共振」を見るという。

「彼の写真には社会的なメッセージやコンセプトがあるわけじゃない。“自分自身への苛立ち”のようなものが彼の表現の原点で、それが次の創作へとつながっている。彼はある意味“自分”というものをずっと握りしめている人なんです。表現者として当然の成り立ちですが、その極めて個人的な行為が、2010年代の写真の在り方と、ものすごく相性がよかった」

●評価には甘えない、義理と人情を大切に

 目の前のコップ、自分の見た空。自分のまわりの世界の小さな断片を切り取り、ネットにアップすることで、自分自身の「生」を肯定する。そんなSNS世代の感覚を、奥山は体現してみせた。

 だが、どんなに人気者になっても奥山は謙虚さを失わない。大史は大学在学中、奥山が監督を務めるファッションブランド「GU」のCM撮影に、カメラマンとして参加したときのことを振り返る。

「女性の顔をどちら側から撮るか、どんな光がいいか――兄には技術的なことも教わったんですけど、それよりも厳しく言われたのは人との接し方や話し方。兄弟で似ているんですが、僕もガッと集中すると周りが見えなくなって、冷たい態度に見えることがある。気をつけたほうがいい、と」

 評価に甘えず、自分を律する。その方法をさまざまな先輩から学んだと奥山は言う。特に覚えているのは、駆け出しのころあるスタイリストから繰り返し言われた言葉だ。

「この世界は、義理と人情だから。それがないと、どんなに才能があってもダメよ」

 そして才能があっても、時代は気まぐれだ。前出の竹内は言う。

「時代に寄り添える時期は、どんなアーティストでも長くない。あの森山大道さんだって、70年代後半から80年代にかけてはどん底を味わった。奥山さんは最初にこれだけ人気を得て、時代と一致してしまった怖さも、十分にわかっているはず。このまま自分をずっと握りしめていくのか、突き放すようなアプローチをするべきなのか、ご自身が一番、考えていらっしゃると思います」

次のページ