毎朝、猫砂や吸水シーツを取り換える。ミルクは3~4時間ごとに与えた。しばらく室内で遊ばせる。2匹はもんどりうって格闘し、最後はいつもペロが負けてミーッと悲鳴を上げる。
そのペロに異変が起きたのは7日目の午前6時だった。ぐったりしたままケージから出てこない。抱くと、トクトクと小さな鼓動が伝わるだけで、動かない。おしっこも出ない。ミルクも飲まない。
もしかして……。久保先生から「『チンコ吸い』にはくれぐれも注意するように」と厳命されていた。幼い猫たちは母親のおっぱいを求め、互いの体をむさぼり、間違えてチンコを吸ってしまうことがある。それが原因で尿道が詰まり、尿が出なくなるケースがあるそうだ。かつて動物病院で、何者かに毒を盛られた野良猫が腎臓を患って尿が出せず、みるみる弱って絶命する姿を見たのを思い出した。
愛護センターへ車を飛ばした。「死ぬな」。赤信号のたびに左手で助手席のペロをなでる。トクトクと小さな鼓動が伝わる。
私が預かる前日、ペロはウリ坊とともに民家の敷地内にうずくまっていた。見つけた住民が保健所に急報し、駆けつけた職員が保護し、愛護センターの獣医師に託された。この救命リレーを途絶えさせてはならない。
出勤してきた職員にペロを預け、自宅でじりじりと待った。夕刻に久保先生からメールが来た。
「とても元気です。ご安心ください。元気がなかった原因は分かりませんが、子猫は突然体調を悪化させることがあります。気持ちが乗らないだけの『やる気がない病』かも」
そりゃ、俺と同じ病気だ――。後日、ペロを引き取り、車の中で抱き上げた。脚をじたばたさせながら涙目の私を見てミーッと鳴いた。ペロ、ペロ、ペロ!
【13日目】ペロが授乳中、哺乳瓶の乳首をかみきって食べてしまった。材質を調べたらコンドームなどに利用される「イソプレンゴム」。久保先生に相談したら「便になるのを待ちましょう」。2匹とも歯が伸びてきている。ドライフードを水でふやかすと、もりもり食べるようになった。