「カルテルって何? カテーテルじゃないよね?」。社会の授業で生徒側に立って質問し、笑いをとる。小林が発言すればするほど、生徒の反応が盛り上がっていく(札幌新陽高校で)(撮影/岡田晃奈)
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「カルテルって何? カテーテルじゃないよね?」。社会の授業で生徒側に立って質問し、笑いをとる。小林が発言すればするほど、生徒の反応が盛り上がっていく(札幌新陽高校で)(撮影/岡田晃奈)

 ビリギャルの本が出たのは小林が25歳のころ。突然の社会的な大ブームで、小林の人生はありえないほど大きく変化した。

「あの本がなかったら今ごろ名古屋から出てもいなかったし、講演活動も全然してなかった。ビリギャルがすべてをくれたからもの凄く感謝してる」

 小林にとって、「学校」とは、中学教師の吐いた心えぐる言葉に傷つき、いつも教師の否定のまなざしが突き刺さる場所だった。慶大受験でやっとそこから脱けだした元ギャルが、教育の世界に自分を生かそうと決心したのは一体なぜなのか?
 生まれも育ちも名古屋。飲食店などを経営する父と、専業主婦の母の長女として生まれる。2歳下の弟、6歳下の妹と3人きょうだいだが、幼いころから家の「スター」はいつも弟だった。父は野球選手を目指していた自分の夢を弟に託すため、つきっきりで野球を指導し、娘には関心を示さず子育ても母親任せ。食卓では弟だけ座布団があり、料理も品数が多いという明白な格差があった。

「弟は野球の才能もある上に、おちゃらけてて愛される人気者。何の才能もない私は、どうして男に生まれなかったんだろう、どうして弟ばかり愛されるんだろうといつも嫉妬していた。家族の中では弟の陰に隠れてハッピーじゃなかったし、小学校での私は自信がなくて引っ込み思案だし、みんなの中で意見が言えない子だった」

 小学2年。同級生をイジメていた子に「何でそんなことするの?」と言ったため、矛先が自分に向くようになった。ある日そのイジメっ子にみんなの前で悪口を言われて、唯一信じていた子にまで笑われ、それに大きなショックを受けて、母の後押しで学校をやめた。何校も断られた末、母の送り迎えで学区外に越境入学することに。

「それでも時々、ハブにされたり嫌な思いもしていたし、教室にいる自分が好きになれなかった」

 繊細な小林は毎日、自分に向けられる他人の視線が気になってたまらず、それを気にする自分との闘いで疲れ果てていたのだ。

「ああちゃん(母)だけは『さやちゃんは世界一幸せになれる子だから』と言い続けてくれたけど、理想と現実のギャップが大きすぎて。私の人生はこれじゃ終われないと思ってた」

 公立中学に進学すると、小学校での人間関係がそのまま持ち越され更につらくなる。すべてをリセットしようと市内のお嬢様校を受験し合格したことが、人生初の成功体験だ。

「入学した途端、勉強をやめた。めっちゃ空気読んでセルフプロデュースして、憧れてた人気者の同級生を真似てはきはきしゃべる活発な子にキャラ変したら、クラスの中心にいる人気者になれた」

●父や教師に何度怒られても友人は裏切らなかった

 中3になると厳しい校則に反発してギャル化まっしぐら。映画の有村架純そのものの超ミニスカートに巻き髪と細眉で、更に身体だけ日サロで焼く。「キャラ変」に磨きをかけたのが中学生合コンだ。小林が幹事を務めて、主要な男子校と女子校からメンバーを集め、安い昼カラオケをハシゴしていたという。

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