「まつげエクステ、サービスで30本もつけられちゃった」(撮影/岡田晃奈)
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「まつげエクステ、サービスで30本もつけられちゃった」(撮影/岡田晃奈)

「幹事の使命感で、どんな子たちと出会っても楽しくする自信がある。この合コン幹事のスキルが今の講演活動に生きてる」

 この頃、文字通り学年ビリの成績を記録。大人から見れば最悪な落ちこぼれでも、仲間目線で見れば友達の中心にいる人気者キャラだった。

 そのころ野球に自信をなくしていた弟は、監督でもある父の文字通り血を吐くようなスパルタ教育に苦しんでいた。試合でエラーすると、帰りの車の信号待ちでパンチが飛んできて口が血だらけに。自分は坊主頭でオシャレもできず父に半監禁状態なのに、毎日、友人と遊んでいるギャルの姉はキラキラしてて楽しそうに見える。

 教師や父に否定され外のギャルライフに逃れた姉と、父に期待され過干渉に耐えていた弟。姉弟はお互いを羨んでいた。母は強い母性愛で3人の子どもを受容してくれたが、子育てを巡って父は母をなじり激しい口論が絶えず、母はいつもバッグの中に「離婚調停に勝てる」を謳ったマニュアル本を持ち歩いていたという。

「私は両親が一刻も早く離婚したほうがいいと思ってた。父親に『クソジジイ、ああちゃんに指一本触れたらただじゃすまねえから』とまで怒鳴ってた。今なら、父親は寂しかったと分かるけど」

 小林は何度、父や教師に怒られてもギャルの仲間を大切にする正義を貫いたが、中3で教師を信用できなくなる大事件が起こる。

 たばこの所持が見つかって約2週間の停学処分になり、校長室で「君は人間の屑だ」とまで言われた上、「君の親友がお前を売ったからたばこがバレた。一緒にたばこを吸った友達の名前を言えば退学を免除してやる」。裏切りを示唆するありえない恫喝に「卑怯すぎる」とガンとして口を割らなかった。学校に呼び出された母に心配をかけたことは悔いたが、教師への不信感は心に根深く焼きついた。

 嫌いな学校で大学まで行くより就職したほうがずっとマシだ。そう考えていた高2の時、母に坪田を紹介され、坪田の薦める慶大受験を決心する。自分を遊べない環境に追い込むため、髪をおかっぱに切り落としメイクもやめ、塾と家で勉強して学校で爆睡するという凄まじい勉強っぷりで、合格判定をジリジリとあげていく。

 一方、苦痛でしかない野球をやめた弟は、髪を伸ばして金髪にし、ピアスをつけて、ヤンキー仲間とつるむようになった。が、父はますます母の子育てを否定してキツくあたり、父vs.母・さやか・弟の対立関係は悪化の一途をたどる。

「ぼくは怖いし勝てないから、今まで父に正面から刃向かったことがない。でも姉ちゃんは家の中で一番気が強くて、1人だけ父にがんがん意見していた。ぼくはいつも姉ちゃんのあとを追いかけてた」(弟)

 弟にとってのヒーローは、いつも閉塞した空気に突破口を開くかっこいい姉だったのだ。

●ビリギャルが大ヒット 生活も意識も怒濤の変化

 高3の冬。小林は慶大の総合政策学部(SFC)に見事合格、渾身の猛勉強のリベンジを果たす。

「受験は住む世界を一変させる便利なツール。ダンスやアートは才能やセンスに左右されるから結果が出ないことも多いけど、受験は暗記。勉強した分、わりと平等に結果が返ってくる。私は弟と違って飛び抜けた才能が何もなかったから、慶大という『外の世界』に留学するような気持ちで勉強していた」

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