「キャラ変する力と人を信じる力は自信がある」。受験を成功させたのも、望む自分になるため(撮影/岡田晃奈)
「キャラ変する力と人を信じる力は自信がある」。受験を成功させたのも、望む自分になるため(撮影/岡田晃奈)
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 黒髪ボブの女子高生が泣きながら廊下を走ってきて、両手を広げた茶髪にセーター姿の若い女性にぎゅっと抱きつく。

「さやちゃん、話したかったよー」

 茶髪の女性は生徒を抱きしめて秘密の打ち明け話に耳を傾けると、「よしよし」と頭を軽くたたき、肩を組みながら歩き出す。恋の悩みか人間関係の悩みなのか、ボディーランゲージで包み込む先輩力がひたすら眩しい。

 この「先輩」が校舎を歩けば、ピースしながら飛び出してくる女子や、職員室の前で出待ちする体操着の3人組、はしゃぐ男子グループが次々に「さやちゃん、来てたんだ!」と寄ってくる。

 こんな学園ドラマみたいな人気者キャラ、リアルで初めて見た! でもここはセットではなく実在する私立校、札幌新陽高校なのだ。

 さやちゃんと呼ばれているのは昨年、「校長の右目」としてインターンをしていた小林(こばやし)さやか(31)。有村架純主演で映画化もされた『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』の主人公ビリギャル本人だ。

 この本は名古屋にある個人塾講師だった坪田信貴(現・坪田塾塾長)が、高校の問題児でビリ周辺の成績を彷徨っていた小林と出会い、彼女が1年間で偏差値を爆上げして慶應義塾大学に合格を果たすまでを綴ったベストセラー書だ。1年半後には映画化、主演の有村が日本アカデミー賞の優秀主演女優賞を受賞した。

 そのビリギャルだった小林が大学を卒業し、社会人を経て、大学院で教育を勉強したいと考えていた昨年、教師や生徒の頑張りを熱く語る札幌新陽高校校長・荒井優の日誌をFacebookで見て感動し、メッセージを送った。それがきっかけで昨年3月から4カ月間、同校のインターンに。教育現場を勉強するという立場で、すべて無償だ。

●野球の才能のある弟に嫉妬を感じた小学校時代

 それにしても校内でのモテっぷりは凄い。久しぶりの訪問なのに、生徒や教師からひっきりなしにイベントや相談の誘いがかかる。現在2年生の似奈は小林に、悩んでいた進路やイジメのことを保健室で相談したり、LINEでアドバイスをもらったりしたという。似奈(にいな)は、「少し前まで勉強をやる意味も学校にくる意味もわからず、遅刻ばかりでグレていた。さやちゃんはイジメる子たちを見下すと同じ土俵に立っちゃうから、その子たちより上に行け、と言ってくれてすごく楽になれた」

 高校をやめて美容の専門学校に行きたかったが、サロンをやるなら経済学も必要と小林に言われ、勉強する意味がやっと分かったという。

 カリスマっぷりがさらに立証されたのが、教師に呼ばれて「ちょっと行ってくる」と面談室に消えた時。30分後には「飲食店のバイト1本で生きたい」という退学希望の女子生徒を「社会を知らなきゃ店は成功できない」とものの見事に翻意させていた。小林はいつも、生徒の気持ちを否定するのではなく、肯定することからはじめる。だから説得力がハンパない。

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