埼玉県桶川市民ホールでの「手をつなごうPTAべに花講演会」(撮影/岡田晃奈)
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埼玉県桶川市民ホールでの「手をつなごうPTAべに花講演会」(撮影/岡田晃奈)

 シャンパンゴールドのスーツと金髪カールのド派手な名古屋嬢姿で入学式デビュー。その「留学先」で仲間たちと期間限定の飲食店運営やバイトにうちこんで、恋愛にのめりこむ。大学からの友人かな子(30)は、当時の小林を「明るくハジけてたけど、周りをよく見ていて面倒見がいいし、人に気が使えるから、仲間にもすごくモテた」という。

 一方、家に帰らず生活が荒れていく弟に「このままでは死んでしまうのでは」と、両親は休戦状態に入り、弟の救済のために団結した。そこから弟の生活も徐々に落ち着き、小林が卒業してウェディングプランナーをやっていた25歳の頃、ようやく家族に雪解けの兆しが見えた。

 弟は23歳で結婚、子どもも誕生して父の居酒屋で店長として働きはじめる。妹は上智大学に入学。その過程を経て父が劇的に優しくなり、両親の関係も和解へと一歩前へ進んだ。

 この年、ビリギャル本が発売され翌々年には映画も大ヒットして、小林は怒濤のような社会現象のど真ん中に放り込まれた。次々にイベントやメディアに呼ばれ、体験を語る中で、小林の意識は急速に変化していく。講演では夫婦問題に悩んだ母に共感して泣く女性も、さやかちゃんに救われたと言う高校生も、そして小林が「クソジジイ」と呼んだ父に、娘との接し方が分からない自分を重ねる男性もまた多かった。

「ビリギャルは自分じゃなく家族の物語で、自分よりずっと大きなもの。だからそのメッセージをみんなに伝えて、教育子育てに生かす使命を与えられたんだと思うようになった。私は敬語ができないし勉強もできなかったし、いつも何かが足りなかった。必死な姿を周りに見せているから、みんなが助けてあげなくちゃと思ってくれる」

 本や映画から人々がイメージするビリギャルは、サクセスストーリーの主役だけにポジティブで屈託がなく、他人の目なんか気にせず目標にまっしぐら。いっぽう小林自身は、人の視線や感情を気にする繊細さを持つ。札幌新陽高校でも、「誰かに感情移入すれば、他の生徒たちを傷つけてしまうのでは?」とかなり悩んだ。

 人を押しのけて、自分を前面に出すのも苦手だ。テレビの食レポコーナーに出演して一言もしゃべれずひどく落ち込んだこともあるし、自分のカメラ目線のドヤ顔写真は絶対見たくないという。

 昨年、学生時代に出会い、25歳で結婚した男性と、話し合いを重ねて仲のいい友人に戻った。手をつないで離婚届を出しに行ったというブログが、SNSで大きな話題にもなった。好きな気持ちは変わらなくても、「結婚当時は一般人だった私が、ビリギャル本が出てから色々なメディアに出たり講演をしたりして、価値観や生活サイクルが変化したりズレてしまったのは大きかった」という。

●エラそうな肩書よりずっと生徒側にいたい

 ビリギャルと小林さやかの間でいつも揺れている気持ちを、どうすればもっと強く確かなものにできるのか? そう悩む小林をかな子は、「さやかは暗かった子ども時代を今も心に住まわせているから、ネガティブな子どもや、自分を強く見せようとするギャルやヤンキーの気持ちもわかるし、寄り添ってあげられる」と評する。

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