この大天守や乾小天守には窓は少なく、さらに窓上部に蝶番を取り付け、つっかえ棒で上に押し上げて開く突上戸となっている。これは合戦を想定し、つっかえ棒さえ外せば、すぐに窓が閉じられる仕組みとなっている。さらに天守台を登ろうとする敵を撃退する“石落とし”や、敵に鉄砲や弓を射かける“狭間(さま)”が数多く設けられていた。
「これは、関ヶ原の戦い前に築かれた天守の特徴で、実戦的仕様になっています」
松本城天守は、戦う城以外の別の顔も持っている。黒門をくぐった本丸内部からは、赤い高欄(こうらん)を持つ廻縁が三方向に付けられた月見櫓が見える。
「月見櫓は、江戸時代の寛永期に、新たに付設された櫓です。これにより松本城は大天守を隅に、渡櫓で乾小天守を、辰巳附(たつみつけ)櫓で月見櫓を、L字形に結ぶ“連結式”と呼ばれる天守構造を持つ城となりました」
月見櫓は、その名が示すとおり月見を行うために造られた櫓で、松本城は、戦う城と雅な城の二つの顔を併せ持つ、他に類を見ない天守を持つ城となった。
この松本城を訪れた方に、ぜひオススメしたい場所がある。それは、城内から再建・太鼓門を通り抜け、橋を渡った先に立つ松本市役所の屋上。そこに設置された、「松本市役所展望室」からは、青空が広がる快晴時にはアルプスの雄大な山々を背景に、松本城の全景を見下ろすことができる。もちろん、入場料は無料なので、ぜひとも立ち寄って欲しいスポットだ。
現存十二天守では松本城以外、国宝に指定された城が、愛知の犬山城、滋賀の彦根城、島根の松江城、兵庫の姫路城の四つある。
なかでも、法隆寺とともに日本初の世界遺産に指定された姫路城は別格だろう。
「関ヶ原の戦いが終結した後、徳川家康が西日本の外様大名へ睨みを利かせるため池田輝政に築かせた城です。大天守と東小天守、西小天守、乾小天守を渡櫓でロの字に繋いだ“連立式”の天守となっています」
姫路城は、全面が白漆喰(しっくい)で塗り固められた雄大な姿から、別名「白鷺(しらさぎ)城」と呼ばれている名城中の名城で、もとは羽柴(豊臣)秀吉の城だった。