『ホークアイ』初瀬礼著
<br />(はつせ・れい)1966年長野県生まれ。上智大学卒業後、1991年にフジテレビ入社。社会部記者やモスクワ特派員、ディレクター、プロデューサーを経験。13年、サスペンス小説「血讐」が日本エンタメ小説大賞・優秀賞になり、デビュー。主な著書は「シスト」、「呪術」
『ホークアイ』初瀬礼著
(はつせ・れい)1966年長野県生まれ。上智大学卒業後、1991年にフジテレビ入社。社会部記者やモスクワ特派員、ディレクター、プロデューサーを経験。13年、サスペンス小説「血讐」が日本エンタメ小説大賞・優秀賞になり、デビュー。主な著書は「シスト」、「呪術」

 一方、去年、12月に中国・浙江省で初めて公開され、注目を集めた技術がある。中国のIT大手「捜狗(Sogou)」が開発した口唇形状認識だ。 話す人の唇の動きを画像認識することによって会話の内容を解読するというもので、ディープラーニングを応用し、中国語の口の動きを数千時間かけて学習させたことで認証率を上げ、間違いを少なくしたという。(AFPより)ちなみにこの会社は去年、世界初という人工知能(AI)合成によるテレビキャスターを発表して話題になった。

 中国でもプライバシーの議論は起きているものの、当局が進める社会統制に企業がビジネスチャンスを見出し、積極的に協力する体制が整えられてきている。2018年2月の日経新聞は、中国公安部は2015年、顔認証システムと監視カメラを使って「いつでもどこでも、完全にインターネットに接続し、完全にコントロールされた」ネットワークの実現を目指す方針を明らかにしたとを報じた。実際、中国の民間企業や顔認証分野のスタートアップは不正行為や犯罪行為を監視するために、政府と積極的に手を組んでいるという。

 顔認証に必要なのは技術だけでない。防犯カメラに撮影された人々と照合するために必要なのが、手配犯のデータベースだ。中国の場合、犯罪に関わる人だけでなく、それ以外の一般市民の顔写真の収集も進んでいるといい、その数は十億件に上っていると考えられている。世界的に批判を浴びている新疆ウイグル自治区でのイスラム教徒の取り締まりの一環に、こうした顔の記録が使われているのではないかという懸念は強い。

 また、顔認証などの人工知能技術を活用している中国の企業であるSenseNetsが収集したと見られる個人データ250万人分ほどが誰でもアクセスできる状態でインターネット上に置かれていたと今年2月、イギリスのコンピューターセキュリティーの会社が発表した。(マイナビニュース)アクセス可能になっていたデータには、個人のIDカード番号、性別、国籍、住所、生年月日、写真、雇用主などが含まれていたという。

 こうした動きは中国独自のもので、日本では導入されるはずがないと思う人は多いだろう。だが、かつてイギリスで防犯カメラが犯罪対策の名の下にあちこちで設置された時、人権問題は当初は議論されたものの、慣れてくると、人々は不満を言わなくなっていった経緯がある。街中にAIによる顔認証監視の網が張り巡らされた時、かつてのイギリスのように、我々も「慣れて」しまうのだろうか?
(初瀬礼)

※週刊朝日オンライン限定記事