歌舞伎町に設置された警視庁の防犯カメラ(撮影・初瀬礼)
歌舞伎町に設置された警視庁の防犯カメラ(撮影・初瀬礼)

その防犯カメラだが、実はその台数は諸外国と比べると、決して多いとは言えない。監視カメラ大国イギリスで、ロンドン警視隊庁が設置している監視カメラは6万台と言われている。
 日本で防犯カメラの代わりに街角で目を光らせているのは人間の眼だ。筆者が書いた警察小説「警察庁特命捜査官 水野乃亜 ホークアイ」は街角でひたすら手配犯を探す見当たり捜査班に配属された警察庁の若手女性キャリアが主人公だ。見当たり捜査は手配犯の写真を覚えこんだ捜査員達が繁華街の街角に立ち、目を凝らし、探すという気が遠くなるような手法だ。当然、執念だけでなく、経験がものをいう世界だが、現在の警察は人事交流という名の下に、数年ごと定期的に別の部署へ配置換えする人事方針を打ち出しているという。警視庁のあるノンキャリの元公安捜査員は筆者にこう嘆いた。

「この方針のせいで、いい捜査員になったなと思える時期に異動してしまうんですよ」

 また、今、世の中を席巻しているのが働き方改革の波だ。従業員をきちんと休ませるということは、すなわち、今まで通りの働き方では仕事は回らないことを意味する。それは警察とて同じだ。だが、事件は警察の思うようには起きてくれるわけではない。
 小説の中で登場した画像分析システム「ホークアイ」は、人材難に悩む警察が人に代わるものとして鳴り物入りでアメリカから導入したAIによる手配犯発見システムだ。街角にある防犯カメラが撮影するリアルタイム動画と、警視庁が持つ手配犯の画像を即座に照合するというものだが、現実にはまだ、こうしたシステムは日本に存在しない。
 だが、顔認識技術を使って犯罪者をあぶり出そうという試みは、海外ではすでに使われ始めており、日々、進歩し続けている。その最前線は中国だ。中国ではすでに「天網」と呼ばれる顔認証を使った捜査支援システムが存在している。

 この技術を提供しているのがWatrixというベンチャー企業だ。この歩行認証ソフトウエアは、監視カメラの動画が捉えた個人のシルエットとその歩き方から、その人物の3Dモデルを作る。個人が持つ歩く癖、すなわち、歩幅、歩長、歩調、スピード、進行ライン、足の角度、おしりの角度といったさまざまな動作が分析されているのだ。(ビジネスインサイダーより)WatrixのCEOであるHuang Yongzhenは、このシステムは、背中を向けたり顔を覆ったりしても、最大50メートル離れた場所から人を識別できると述べた上で、顔認証にないメリットを挙げた。

「歩行の分析は、足を伸ばして歩いたり、ひっくり返ったりするだけではだまされません。全身のすべての特徴を分析しているからです」(AP)

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