手作りの経口補水液も甘くて飲みづらいので、子供の頃は夏をどうやって過ごしていたかを思い出し、麦茶を作った。作ったといっても近所のスーパーで水出し用のものを買ってきて、ポットに入れただけである。昔は夏になると、母親が大きなやかんにいっぱい麦茶を煮出して、それをそのまま食卓の上にどんと置いていた。そしてそこから各自コップに注いで飲んでいた。たまに砂糖と塩をほんの少し入れてもらって、甘くして飲むのも大好きだった。しかし今の私には甘すぎるのは辛いので、麦茶ポットにほんの少しの塩を入れて飲んだ。やっぱり経口補水液よりも麦茶のほうがおいしかった。

 友人の、料理はすべて手作りする女性も、やはり夏は麦茶だといって、ちゃんと粒の麦茶を煮出す、正統派の麦茶を作っておいた。すると20代後半の娘さんと、20代半ばの甥が、コップに注がれたその麦茶の匂いを嗅いで、

「変な匂い」

 といったのだとか。甥のほうはずっと運動部の寮に入っていて、

「寮のおばちゃんが作っていたのと、同じ匂いがする」

 という。その寮母さんは大きなやかんにその匂いがするものを作ってくれていて、それを飲んでいる部員もいたが、彼はペットボトルのお茶を飲んでいた。

「それがこの麦茶でしょう。寮母さんはちゃんとしたものを作ってくれていたのに。わざわざペットボトルの麦茶を買って飲んでいたの?」

 と彼女は呆れた。おまけに娘さんも甥も、「ペットボトルの麦茶はくさくないから、そっちのほうがいいね」

 などというので、彼女は激怒していた。

「まったく、本物がどういうものかわからないんだから、恐ろしいわよね。ちゃんとしたものが変な匂いなんて、いったいどういうことかしら」

 そこで私は、ずいぶん前にお茶屋さんの店頭からほうじ茶を焙じる匂いが漂ってきたら、

「臭い、臭い」

 といいながら走って逃げた女性たちや、つわりでもないのに、御飯が炊ける匂いが大嫌いとか、青畳の匂いを嗅ぐと気持ちが悪くなるので、和室はいらないといっている人たちの話をした。すると彼女は、

「何かが間違っている」

 とまた怒った。

 知り合いの主婦はアイスティーが好きなのだが、ペットボトルかパック入りのものを買うという。たしかに家で作ると、上手に急冷しないとにごったりすることもある。

暮らしとモノ班 for promotion
「更年期退職」が社会問題に。快適に過ごすためのフェムテックグッズ
次のページ