ちなみに、私が親しい人やお世話になった方にプレゼントする写真は、特別に希望がないかぎり、すべてモノクロです。単にきれいな写真は私のメッセージとしてプレゼントしません。販売する作品も可能なかぎりモノクロ写真にしています。
写真が発明されてから約180年になります。モノクロ写真も同じ長さの歴史があるわけですが、そこで培われてきた文化、技術の蓄積があります。それに対して感謝の気持ちを持ちながら作品をつくっていく必要があるでしょう。ゼロからの創造はできないと思いますから。
それを急激にデジタルの世界に入っていくことで、銀塩モノクロ写真の文化をわれわれの世代で断ち切ってしまうのはあまりにももったいない。何とか伝えていかないと昔の人に申しわけありません。将来、抜きん出て優れた能力や才能を持つ若い人が出てきて、銀塩モノクロで素晴らしい作品を撮ってくれる可能性があります。そんな夢が私の胸の内にはあり、それを信じています。一度失われた文化や技術を復活させるのはものすごく大変なことです。
銀塩モノクロ写真はデジタルに比べて面倒だし、時間も桁違いにかかります。むろん、お金もかかります。それでも可能なかぎり次の世代へ伝えていく責任があるのではないかと考えています。
私はいま80歳ですが、命のあるかぎり、モノクロで風景を撮り続けていきたいと強く思います。(談)
写真:水越武 構成:米倉昭仁(編集部)

※アサヒカメラ2019年5月号より