中国の業者が開発中の国境の町。コロナ禍で建設が止まったビルや廃業した娯楽施設が目立つ=ラオス・ボーテン

 5分ほど走ると中心部に着く。「昼ごはんが食べたい」。そう伝えると、西安出身の運転手に中国東北料理店を薦められた。店主はロシア国境の黒竜江省・黒河出身。隣のテーブルで水餃子を食べている2人組はトラック運転手。山東、山西省から来たと言う。中国人がラオス各地で経営する農園からバナナを国境まで運んでいるそうだ。ラオスの名物ビアラオというビールを昼間からあおっている。「人の往来も年末までに再開するはずだ」。中国のゼロコロナの緩和を期待していた。

 私も水餃子を食べた。日本円で500円ほど。ラオスの通貨で現金払いしたが、中国人客はみんなスマホのアプリを使って人民元で支払う。メニューの表記も人民元。店を出たとたん、別の男性客が追いかけてきた。

「不動産を見ていかないか」

 モデルルームに案内された。「必ず値上がりする。暖かいラオスで老後を過ごそうと中国の東北地方からも買いが入っている。いずれ教育、金融、健康産業の工業団地を整備する。ラオスの文化を尊重し、大仏も建てる」。巨大なジオラマを前に熱弁を振るう。

「ここで女を買うのは、安い。雲南の4分の1以下だ」。タクシーの運転手が、聞いてもいないことをにやにやと説明する。

■寂れた国境の町

 この辺りではかつて、カジノで殺傷沙汰があった。「治安は大丈夫なのか」と聞くと、「両国首脳が開発を後押ししている。カジノはもうない。中国人が警備しているから大丈夫だ」。

 中国人の町なのだ。

 列車の時間があるからと振り切って外に出た。見渡せば工事が中断したビルが林立している。完成した数十階建てのビルにも人けはない。町をめぐるとカラオケ店は閉まり、演舞場の看板も朽ちている。

 コロナで中国からの人や資金の流入が途絶えて2年半が過ぎた。「鬼城(ゴーストタウン)」。そんな言葉が浮かぶほど、国境の町は寂れていた。トラックだけが砂埃をあげて行き交う。

 駅に戻ると、ホームの向こうに貨物列車が止まっている。ラオスの英語紙ビエンチャンタイムズによると、ラオス国内では開業から1年で126万人が利用した。ビエンチャン-ボーテンで言えば、所要時間は3時間余り。バスの5分の1近くまで短縮され、運賃はほぼ同じ。切符が売り切れることもあるゆえんだ。

 貨物は200万トンを運んだ。中国へはラオスのコメなど食品や資源が、中国からは電機や機械、自動車部品が運ばれた。中国は貨物をより重視し、ラオスを抜けてタイ、マレーシアからシンガポールへと海へ抜ける輸送ルートを確立しようとしている。

 中国が造った鉄道は、ラオスをどう変えていくのか。国家の思惑を超えて、人々の生活を豊かにする足に育ってほしい。

 午後2時。ルアンプラバンへ戻る列車に乗り込んだ。(朝日新聞編集委員・吉岡桂子)

AERA 2022年12月19日号

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