
■スカイライナー並み
ラオスの経済規模は鉄路でつながった中国の雲南省と比べても18分の1、人口は7分の1にすぎない。ラオス文化への配慮は、双方の政府にとって鉄道の開通で一層強まる「中国色」を薄める狙いがあるはずだ。
9時31分。定刻に発車した。車内ではラオス語、中国語、英語の順で、次の駅名を告げるアナウンスが入る。私が乗った2等席は3分の2ほど埋まっている。中国人観光客は自国のゼロコロナ政策の影響で姿を消し、外国人客の中心はタイ人だ。
バナナやヤシなど濃い緑が車窓を横切る。メコン川を渡るとき、車内に歓声があがった。近くの男性はずっと立って景色を見ている。ラオスの鉄道はこれまで、タイと結ぶ3.5キロだけだったので、初めて鉄道に乗った人も少なくないのだ。
レールの幅は中国と同じ標準軌(1435ミリ)で単線。電車だ。スマホのアプリで測ると最高時速は160キロ近い。成田空港と都心を結ぶ京成スカイライナー並みで、日本の在来線の最高速水準だ。
数分おきにトンネルに入る。ラオスには今も、ベトナム戦争時に米国軍が落とした不発弾が眠る。鉄道建設にあたってはラオス軍が除去しながら整地したという。
建設費60億ドル(約8千億円)はラオスの国内総生産(GDP)の約3分の1。その大半を中国の銀行から借りた。営業がふるわず、返せなければ、沿線の土地を収用されてしまう契約だ。

■債務の罠と一帯一路
「債務の罠」。返せないほどの借金をし、貸し手の影響力から逃れられなくなる恐れがあると、先進国から批判を浴びる。
対外戦略「一帯一路」を掲げて、影響力の拡大を狙う習近平政権に押し切られたのか。
半分正しく、半分違う。
「近代的なインフラを求めるラオスの人々の夢がかなった。両国の運命共同体の象徴だ」。2021年12月の開業式典で、トンルン国家主席は誇らしげに述べた。ラオス側も本格的な鉄道を熱望していた。技術の導入や経済振興のためだけではない。「一人前の国家の証し」(アジア経済研究所のケオラ・スックニラン氏)ともみなされた。
11時。ボーテンに着いた。駅前にたむろするタクシー運転手は、すべて中国人だ。