撮影用展望席もある環状線の日本製車両 一周約15円
本誌2月号の鉄道写真特集号で、米屋こうじ氏撮影のミャンマーの巨大な鉄道橋に目が釘付けとなった。私もぜひ行ってみたい。そこで、2泊4日の弾丸ツアーでミャンマーのヤンゴン国際空港に降り立つ。さっそく現地の旅行社に、米屋こうじ氏撮影のゴッティ鉄橋の写真を見せると、即座に「絶対無理!」と、言われた。そこはものすごい山奥で、ヤンゴンから鉄道で行くだけで2日、帰るのに2日かかるので最低でも5日は必要だという。2泊4日の弾丸ツアーでは、土台無理な話だった。
落胆していると、そんなに鉄道が好きならと、ヤンゴン環状線を勧められた。環状線と聞いて、山手線や大阪環状線を連想し、食指が動かなかったのだが、乗ってみれば、すこぶる楽しかった。なんたって車両が、元JRのキハ40系ディーゼルカーで、しかも前面展望?なのだ。
ヤンゴン中央駅で、まずはキップを買う。環状線は一周45.9キロ。山手線(34.5キロ)より一回り大きい。運賃は200チャット(約15円)。一駅でも一周しても均一料金である。まずは、環状線外回りの電車、いやディーゼルカーに乗り込む。元JR東海のキハ40系5両編成で、行き先表示は「多治見─美濃太田」。かつて太多線を走っていたキハだ。車内はプラスチック製のロングシートに改造された車両もあれば、日本時代のボックスシートもある。日焼け止めの「タナカ」を塗った車販嬢が行き交う車内は実に騒々しくて楽しいが、より興味深い場所を発見してしまった。それは、列車の先頭部分、運転席のすぐ横である。日本では当然、施錠されている貫通扉が開け放たれ、熱帯の薫風が直接車内に流れ込んでくるのだ。
最高の撮影場所とカメラを構えていると、なんと車掌氏がプラスチックの椅子を持ってきて、「どうぞ!」と勧めてきた。前面展望でしかもオープンデッキ、ガラス窓もないだけに、小田急ロマンスカー以上の快適撮影指定席というわけだ。この席で環状線一周は最高! と、思いきや、それからおよそ20分ほどのチーミインダイン駅に停車すると、この列車はここまでなので乗り換えるように言われた。
環状線ながら運転は細切れで、しかも今は工事中のため一周することは不可能だという。結局、私は後続列車で終点のダニュインゴン駅まで行ってからヤンゴン中央駅に折り返し、今度はJR東日本のキハ48系「石巻行き」に乗って、内回り線の終点、パユェセッゴン駅までの旅を満喫した。ああ、楽しかった!
写真・文 櫻井 寛
※アサヒカメラ2019年4月号より抜粋