私は20年以上にわたって老年精神医学にたずさわり、数多くの高齢者と接してきた。その中で、常々感じていたのが、老化は「個人差」が大きいということだ。

 80歳を超えても、毎日をアクティブに楽しく過ごしている人もいれば、まだ60代だというのに家に引きこもって四六時中不機嫌そうにしている人もいる。見た目も、実年齢マイナス10~15歳にしか見えない人もいれば、その逆もある。

 もちろん40~50代でも実年齢より若かったり老けこんでいる人はいるのだが、高齢者のそれとは格段の差がある。

 これはどうしてなのか?

 私がたどり着いた答えは、「感情の老化の度合いが、心身の若さに大きく影響している」ということだった。

 人間の脳は部位によって働きが異なるが、感情をつかさどっているのは前頭葉(ぜんとうよう)である。前頭葉では、自発性、意欲、創造性、気持ちの切り替え、感情のコントロールなど、人が幸せに生きる上で重要な働きを受け持っている。しかし、他の部分より老化が早く、40代から萎縮が始まることがわかっている。

 それを放置しておくと、「やる気が起きない」「新しい考えが浮かばない」「感動しにくい」「怒りや悲しい気持ちを切り替えられない」などといった症状が出てくる。

 これが「感情の老化」である。

 年寄りが頑固になったり、怒りっぽくなったり、いつまでも悲しみを引きずるのは、感情の老化の代表的な症状といえるだろう。

 そして、感情の老化が起きれば、「何をするのも億劫(おっくう)で、何をしても面白くない」状態になるため、頭も体も使わなくなる。使わなければ当然衰えるのだが、厄介なことに、高齢になればなるほど、使わなかったときの衰えが速い。

 たとえば、若い人が事故などで1カ月間寝込んだとしても、少しの期間で回復するが、高齢者の場合は簡単に歩けなくなったりする。

 つまり、健康的で幸せに年齢を重ねるためには、感情の老化に歯止めをかけ、頭も体も使い続けなければならないのだ。

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