移動すると金がかかるので、ただ、自由の女神を眺めていた(撮影/阿部稔哉)
移動すると金がかかるので、ただ、自由の女神を眺めていた(撮影/阿部稔哉)

 運転手が交代するときは、僕に対しても、「メリークリスマス」と声をかける。まだ12月の初旬だというのに。

 東海岸と西海岸の人々は株価の動きに不安を抱き、南部はメキシコ人や中南米の人々のパワーにさらされている。しかしシカゴからシアトルまでの一帯は、悩みを知らないアメリカが広がっているような気になってくる。

 ロサンゼルスを発って10日目の夕方、シアトルに到着した。寒さが遠のき、細かい雨が降り続いていた。

 シアトルのバスターミナルはチャイナタウンの近くにあった。そこを抜けて市街地に入ろうとすると、宇和島屋という日系スーパーがあった。その一画には紀伊国屋もある。日本がだいぶ近づいてきた。気分は軽くなったが、ロサンゼルスまでは25時間のバスが待っている。パン、チーズ、サラミのセットという食事でしのぐ丸1日が待っていた。もう見るのも嫌だが、空腹をごまかす食料はほかにない。

バスターミナルもない路上でバスを乗り換える(ミネソタ州)(撮影/阿部稔哉)
バスターミナルもない路上でバスを乗り換える(ミネソタ州)(撮影/阿部稔哉)

 12日目の夕方、ロサンゼルスに着いた。これだけ切り詰めたというのに、9万415円もオーバーしてしまった。30年前、アメリカ一周のバス旅では体重が2キロ減った。そして今回、帰国して量るとやはり2キロ減っていた。

 次回は12万円で暮らす旅。難民で埋まるバングラデシュ南部、ミャンマー国境の村での10日間だ。

※週刊朝日2019年3月29日号

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■下川裕治(しもかわ・ゆうじ)
1954年生まれ。新聞記者を経てフリーに。『12万円で世界を歩く』(朝日新聞社)が旅行作家としてのデビュー作。アジアや沖縄などに関する多数の著書がある。AERA dot.では「どこへと訊かれて」を連載中。朝日新聞デジタルの「&TRAVEL(アンド・トラベル)」でも記事が配信されている。

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