東池袋大勝軒のもりそばや中華そばはとにかく量が多い。もりそばの並で340g、中華そばの並は310gだ。通常のお店の倍ぐらいの量である。なぜそんなに量が多いのか、昔山岸さんに取材させていただいた時、直接聞いたことがある。すると山岸さんは一言、
「俺が足りないからだよ」
山岸さんはラーメンを“大衆食”と考えられていて、「とにかく安く、美味しく、お腹いっぱいになるものを」というのがモットーだった。飯野さんもそれを受け継ぎ、原料の価格高騰などと闘いながら美味しい一杯を提供し続けている。
やはり注目したいのは毎日2階の製麺所で作る自家製麺だ。飯野さんはこの自家製麺を「毎日同じクオリティで作るのは至難の業」だと話す。単純に粉と水の量を決めるだけでは安定させることができない。晴れの日、曇りの日、雨の日ではもちろん麺の出来は違うし、湿度も毎日チェックしながら麺を作っている。山岸さんがレシピではなく感覚で作ってきたものを、きちんと自分のものにするには大変苦労されたという。
看板メニューの特製もりそばももちろんなのだが、中華そばも本当に美味しく、筆者は死ぬ前に食べたい一杯としてこのお店の中華そばを挙げたい。
あまりにも大きな存在であるマスターの後を継ぐのは物凄いプレッシャーだと思うが、飯野さんの作るラーメンは心がこもっていて本当に美味しい。舌も心も原点に戻れる貴重な一杯だ。
そんな後継ぎの苦労を知る飯野さんが愛するラーメン店を紹介したい。
■食材に誰よりもこだわる“ラーメンの鬼” 支那そばやを受け継ぐ妻
神奈川の名店「支那そばや 本店」は創業者である佐野実さんが1986年に藤沢の鵠沼海岸で開業したお店だ。「東池袋大勝軒」山岸さんが“ラーメンの神様”ならば、佐野さんは“ラーメンの鬼”。ラーメンを、そして食材を誰よりも愛し、徹底的にこだわった一杯を作り続けてきた。
豚や鶏、魚介などのスープの材料や、麺に使う小麦、醤油や塩などの調味料はもちろん、お水や浄水器に至るまで、全国を渡り歩いて独自のネットワークを切り開いた。スープに使うラーメン用の地鶏「山水地鶏」は今や多くのラーメン店にも使われる人気食材だ。