長野県には紅葉の名所がたくさんあり、それを映し出すすばらしい湖沼の宝庫でもある。水鏡をきれいに写すいちばんのポイントは風。少しでも風があると波立ってしまい、水面の反射が白く目立ち、美しい水鏡にはならない。経験上、太陽が昇ると上昇気流が発生するためか、風が出やすい。条件がよいときは日中でも水鏡になるが、どちらかといえば早朝と暮色の時間帯は風がやみやすい。また、水面の面積が小さいほど風の影響は受けにくく、水鏡の状態になりやすい。各地の撮影時間帯の目安も書いたが、「この場所は朝だ」「夕方だ」と決めつけないで、光線を自分なりに読んで撮影することも大切だ。ここでは、写真家・五島健司氏がオススメする紅葉と水鏡の宝庫・長野県の「水鏡10選」をお届けする(「アサヒカメラ」10月号から)。
【写真家・五島健司氏が撮影した長野県「紅葉水鏡」10選の美しい写真は、こちらから!】
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1. 鎌池(長野県小谷村・雨飾高原)
鎌池は新潟県境に近い雨飾高原の標高1190メートルにある紅葉の名所で、池を一周する約2キロの遊歩道が整備されている。近くに駐車場はあるが、人気の撮影地なので紅葉の時期はすぐに満車になってしまう。雨飾山を背景にした池のまわりは黄葉するブナがメインの原生林に覆われているが、写真のように赤い紅葉もある。池の周囲を覆う木々に光がよく当たるトップライトの時間帯が水鏡をいちばんきれいに撮影できる。撮影場所によっては天狗原山や堂津岳など、周囲の山々を入れて空抜けの構図で写すこともできる。大きな池ではないので、対岸の木々までの距離が近く、標準ズームレンズ1本で撮影を楽しめる。
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2. 鏡池(長野県長野市・戸隠高原)
戸隠高原を代表する絶景スポット。標高1200メートルに位置する池からは荒々しい山肌の戸隠連山が水面に映る。池のまわりはモミジやダケカンバ、カラマツで覆われている。秋の朝は、戸隠連山とそれを背景にした紅葉の斜面に正対して光が当たるので、木々を鮮やかに染め上げる。靄(もや)が漂う光景は幻想的。夕方はカメラマンは少ないが、戸隠連山をバックに星の日周運動を撮影する人もいるので、薄暗くなったころから南側の堤防には三脚がびっしりと立ち並ぶ。撮影ポイントの右の湖面に人工物があり、それを外して撮るのが定石。背景の山が見えれば、山を入れて広角から標準レンズで写す。山が雲に覆われていれば望遠レンズで紅葉を切り取る。