『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』は、その年の大宅壮一ノンフィクション賞を受賞する。この年は異例の三作受賞だったが、『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』は、「選考委員全員が二重丸をつけ(これだけ意見が一致することは滅多にあることではない)、文句なしの受賞」(立花隆の選評より)だった。選考委員の中には澤地久枝もいた。モジミのことをあえて書かなかったのは、辺見にすれば確信犯だったのかもしれない。

 原作には、映画では描かれてない山本の俳句や詩、散文がふんだんに引用されている。辺見の選んだこれらの句から、山本の自由な精神と山本を慕う男たちの気持ちを読者は汲み取れるようになっている。だからこそ、男たちが命をかけて遺書を暗記して届けるという奇跡は起こったのだし、その妻への遺書がこう始まることに読者は心打たれるのだ。

<妻よ!よくやった。実によくやった。夢にだに思はなかったくらゐ、君はこの十年間よく辛抱して闘ひつづけて来た>

下山 進(しもやま・すすむ)/ ノンフィクション作家・上智大学新聞学科非常勤講師。メディア業界の構造変化や興廃を、綿密な取材をもとに鮮やかに描き、メディアのあるべき姿について発信してきた。主な著書に『2050年のメディア』(文藝春秋)など。


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