浜田 「おもんばかる、察する、みたいなこと」
小泉 「今はどんなことも二極化にまとめようとする単純さがある。私はよく『左だ』って言われるけど、左だろうと右だろうとグラデーションがあるはずで、その両方にまたがる人だっている。久世さんは息子さんを亡くした伯母さんを、靖国神社に連れていく話も書いているんだよね」
浜田 「そのときは曲が『海ゆかば』だった。『マイ・ラスト・ソング』の舞台で初期の頃、歌っていたんだけど」
■抗うものを文化にしていく
和田 「有名な軍歌の?」
小泉 「久世さんの書いたテキストを読んで考えよう、ってことだった。戦争の中で、ある歌を共有する体験とはどういうことか?をね。でも今みたいに右だ左だと即言われてしまうと、それを歌う意味が固定された思想のように言われ、『あの人は左のくせに右の歌をなんで歌うの?』とかなる。この15年でそういう世の中に、大きく変化してしまったと感じる」
和田 「歌に変な意味が加わってしまう時代になったのかもしれない」
小泉 「私は映画『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』も見てすごく理解できたし、昭和4年生まれの父親はもっと早く生まれて『特攻隊に入りたかった』と言っていた。信じているものが空の上にずっとあったのに、戦争が終わった途端にそれがなくなっちゃった少年の喪失感みたいなものを、三島さんの映画を見たときにも、父の言葉を聞いても思っていた」
浜田 「戦争が終わったときの虚無感ってすごかったろうなぁと思う」
小泉 「久世さんのテキストにもそういう虚無感みたいのが書かれていて理解できるのに……」
和田 「今は個人的な想いも、国家的な視点で見てズタズタにされていく世の中のように思える」
小泉 「私はただ、こんな悲しい目に遭った人がいたと、それを伝えたいだけなんだけどね」
最後にみんなで思いきりポップな衣装で撮影をした。今日子さんが「和田さん、入る?」と言ってくれ、いそいそと参加。「漫画家の和田先生にしか見えない」とカメラマンの武田さんが言い、漫画家先生とファンたちというコンセプトで撮影した。妙に舞い上がり、ワハハハ笑う。笑いながらMarinoさんが途中で言っていた「何をしても抗えない。でも、それを全部貯めて自分たちの文化にして美しいものを作っていく。それが沖縄の強さなのかもしれません」という言葉を思い出した。「マイ・ラスト・ソング」に込められた想いも、そういうものかもしれない。いや、もちろん、抗い続けますけどね、私たち。(ライター・和田靜香)
※週刊朝日 2023年5月5-12日合併号より
舞台
「マイ・ラスト・ソング~久世さんが残してくれた歌~」
浜田真理子(唄・ピアノ) 小泉今日子(朗読)
5月7日(日)Billboard Live YOKOHAMA(神奈川)/5月13日(土)北九州芸術劇場 中劇場(福岡)/5月20日(土)Billboard Live OSAKA(大阪)/5月27日(土)、28日(日)島根県民会館 中ホール(島根)/6月3日(土)ぎふ清流文化プラザ 長良川ホール(岐阜)/6月4日(日)可児市文化創造センターala 主劇場(岐阜)/6月9日(金)道新ホール(北海道)/6月11日(日)I’M A SHOW(東京) *詳細は各会場のHPへ
CD
『マイ・ラスト・ソング アンソロジー』
2023年5月3日(水)リリース
2枚組 4400円(税込み)