元朝日新聞記者 稲垣えみ子
元朝日新聞記者 稲垣えみ子
この記事の写真をすべて見る

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【写真】ポートランダーは椿好き。日本じゃ見たことない大木が春の雨に美しく散っていた

*  *  *

 ポートランドで驚いたことの一つが物価の高さ。普通のカフェでもラテ(小)が5ドル(700円弱)。ファーマーズマーケットでは人参やブロッコリが一束3~4ドル! なぜこんなに高いのか。インフレ? 円安? 人生初アメリカゆえその分析は横に置くとして、ここではこの物価高を私がどう受け止めたのかを書く。何しろ日本じゃ本当にお金を使わず生きている身。もちろん最初はエエエッと思いましたとも。それが途中から考えがコロッと変わり、全く平気になった。なぜか。

 明らかにポートランダーの影響である。彼らは「お金を使う」ことに対する感覚が日本と全然違うのである。

ポートランダーは椿好き。日本じゃ見たことない大木が春の雨に美しく散っていた(写真:本人提供)
ポートランダーは椿好き。日本じゃ見たことない大木が春の雨に美しく散っていた(写真:本人提供)

「ご近所主義」で知られる当地では、利益の一部はご近所さんに返すことがムーブメント。「地産地消」をモットーとする近所のスーパーは売り上げの1割を地元コミュニティーに寄付することで人気を集めているし、エアビーで家を貸してくれた家主も宿泊代の1割をコミュニティーに寄付すると公表している。これがどういうことかというと、我ら客は「割高」なお金を払うことでこの地域が良くなるように間接的に寄付しているのである。

 で、これを客としてどう考えるかってことなんだが、近所の人の笑顔に助けられ言葉も通じぬ国で孤独を癒やされている身としては、その笑顔が消えぬよう寄付することはやぶさかではない。っていうかむしろ光栄。回り回って自分の幸せになると思えば損した気になどならぬ。ってことでいそいそと高い買い物をする私。ついでにどんな客にもめっちゃ優しいカフェではセルフサービスだがチップも喜んで出す。だってこのカフェが繁盛すれば皆が幸せ私も幸せ。ふと見れば他の常連もチップをガンガン払っている。それは「明日も元気に営業してね」というエールなのだ。

 なるほど経済の好循環ってこういうこと? 出したお金が結局は自分に返ってくると信じられれば出し惜しみしなくて済む。信頼があれば経済は回るのだ。我らの八方塞がりからの出口がここに?

◎稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

AERA 2023年5月1-8日合併号