TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回は、ジャクソン・ブラウンのライブについて。
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3月、僕は渋谷のオーチャードホールの甘酸っぱい感傷の中にいた。
高校時代ラジオで知って以来聴き続け、放送局に就職してからは何十回オンエアしたかしれないのに、ジャクソン・ブラウンのライブは初めてだった。とっておいたというか、青春のバージニティを大切にしたくてためらいがあったのかもしれない。
オープニングは“Before the Deluge”。1979年にニューヨーク・マジソンスクエアガーデンの“NO NUKES”でも歌われた曲だ。デリュージとは大洪水の意味で、直訳すれば「大洪水の起こる前に」。ウクライナ戦争のことを示しているのだろうか。ジャクソン・ブラウンは原発、環境、移民など様々な問題をモチーフに歌い続けてきたが、その中にもちろん、反戦もある。
60年代後半からベトナム戦争の泥沼化に伴って世界の若者たちの反乱が起こった。そんな世代に属する彼は、デビュー以来、世の中の不条理を見つめる内省的な歌詞と、どこか乾いたメロディーで学生たちのナイーブな思いを代弁してきた。
それにしても、と彼の曲を聴くたびに思っていた。半世紀も前の作品が色褪せることなく、初々しいのはなぜだろう。
客席の多くは男性客だった。示し合わせたようにヨットパーカーに足元はスニーカー。そんな西海岸風出で立ちはジャクソン・ブラウンが好むスタイルで、会場は和やかな一体感に包まれた。
“Your Bright Baby Blues”を歌おうとすれば、「スライドで弾いてくれないか!」と客席からの声に「very rare(滅多にないことだけど)」と苦笑しながらボトルネックを取り出し見事なスライド奏法を披露したり、“The Load - Out”では“We’ve got Richard Pryor on the video”を“We’ve got 黒澤明 on the video”に替えて歌ってくれた。