ジャクソン・ブラウン
ジャクソン・ブラウン

 何度も口にした名前がジェフリー・ヤングとデイヴィッド・リンドリー。かけがえのない音楽仲間を失ってしまったが、今回のジャパンツアーを彼らに捧げるんだと客席に話しかけた。あたかも、君たちだって彼らの親しい友達じゃないかというように。

 ♪困難を切り抜けようとするとき、これまで頼りにしていた仲間を探す。そして彼らもまだ走っているのがわかる♪

 本編のラストナンバー「孤独なランナー」はこの世から去ってもなお同じ地平を目指して走り続けようという呼びかけにも聴こえた。

「声が全然変わっていないね」

 隣の席で村上春樹さんが囁(ささや)いた。歓声の中でも春樹さんの声がはっきり聞こえた。そうか、と思った。ジャクソン・ブラウンが今も初々しいのは声のためなのだ。青々して、どこまでも伸びる声。村上RADIOで全国に届く春樹さんの声と同じだ。

 春らしいサーモンピンクのヨットパーカーを着た春樹さんはジャクソン・ブラウンと同じ年。村上春樹とジャクソン・ブラウンという青春文学と青春音楽の世界的旗手と同じ時間を過ごす幸せな時間に、今までジャクソン・ブラウンの公演に足を運ばなかったのはこの夜があったからなのかもしれないなと思った。

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞。新刊「松本隆 言葉の教室」(マガジンハウス)が好評発売中

週刊朝日  2023年5月5-12日合併号

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