
宗教社会学が専門の猪瀬優理龍谷大学教授は、女性が新興宗教に入信する背景には、現代の日本社会にいまだ横行しているジェンダー不平等な性別役割があると指摘する。
「日本では女性が家事や子育て、介護などの『家族に対するケア役割』を引き受けることを『当たり前』とする風潮がいまだにあります。一方で、男性は家庭におけるケア責任を負っている意識は希薄です。家庭で困難があっても基本的に誰も助けてくれず、うまく対処できていたとしても誰もほめてくれません」
■宗教活動で達成感
ジェンダー不平等な社会構造や価値観が、女性の入信の動機が「家庭的問題」になりがちであることの根本的な要因であると考えられるという。
猪瀬教授は以前、エホバの証人を脱会した元信者を対象に調査をした。
自ら信者になった女性らは、子育てに不安や悩みを持っていたが、明確な支援は得られていなかった。だが、エホバの証人とともに聖書研究をしたり、集会に行ったりするようになると、指針だけでなく達成感や満足感が得られた、と話したという。
「つまり、通常の家庭生活ではこのような実感があまり得られなかったわけです。宗教集団への参加によって、家庭からの一時的な逃げ場や自己実現の可能性を得ることもできるのではないかと思います」(猪瀬教授)
新興宗教は、子どもも抑圧している。
「宗教2世」における女性の問題を指摘するのは、日本基督教団白河教会牧師の竹迫之(たけさこ・いたる)さん(55)だ。旧統一教会の元信者で、40年近く脱会支援活動を続ける竹迫さんは言う。
「特に2世の女性は、自由な恋愛は禁止され、露出の多い服装も許されないなど、子どもの頃から主体性を剥奪されています。そのため、成長するに従い、教団の教義がおかしいと気がついても、それを認めることが難しいのです」
■ジェンダー平等が急務
教義の否定は、親を否定することになる。それは自分のルーツを否定することになり、自分は間違って生まれてきた人間なのかと悩み、自尊心が損なわれていく。宗教2世の女性の中には、教義はおかしいと思いながら認めることができず、脱会できなくなっている人もいるのではないかという。