果たして、値上げの動きは今後も続くのか?
東京商工リサーチの調査によれば、月別の価格改定品目数は6月に再び急増するものの、8~9月は大幅減少の見通し。ただし、楽観は禁物だと前出の二木さんは語る。
「中国やアジアでも経済活動の再開が本格化しており、国際的な原材料不足(インフレの進行)は続きそう。こうしたことから、商品価格への転嫁はこれから本番を迎える可能性があります。今年上半期までに価格改定済みの商品でも、下半期にさらなる値上げに踏み切るケースが出てくるかもしれません」
食品だけに限らず、全般的な物価にしても、伸び率は縮小しながらも、上昇自体は止まらないと前出の小林さんは読む。
「資源価格のピークアウトや円安の是正、政府の物価高対策(電気・ガス料金の補助)によって、今年2月以降の消費者物価指数は、前年比のプラス幅がいったん縮小していくものと推察されます。しかし、電力会社の燃料費調整額の上限引き上げ(従量電灯プラン料金の値上げ)が進むことで、政府の対策効果は低減。食料品を中心に原材料コスト増の価格転嫁も継続することから、前年比の縮小ペースは緩やかなものにとどまり、政府が追加の対策を講じなければ、来年には再び前年比のプラス幅が拡大しそうです」
■賃上げ超える物価上昇
ただ、さらに値上げが進んでも所得が増えれば、家計のダメージは緩和される。3月中旬に日本労働組合総連合会は、今年の春闘賃上げ率(初回集計結果)が平均3.8%になったと発表した。物価高や人手不足を踏まえ、多くの企業が賃上げに積極的な姿勢を示したことが背景にあるが、小林さんは釘を刺す。
「最終的な賃上げ率(6月末集計)が3.2%程度と、1993年以来の伸びを達成する可能性があります。また、1人当たりの名目賃金も増加基調を示しています。しかし、物価の上昇に伴い、実質賃金は大幅なマイナスとなっています。物価が高止まれば、実質賃金の低迷が続く可能性があるでしょう」
支給された額面通りの金額を意味する名目賃金に対し、物価の変動を反映させたのが実質賃金。ベースアップに気が緩み、財布のヒモを緩めてしまうのは早計かもしれない。(金融ジャーナリスト・大西洋平)
※AERA 2023年5月1-8日合併号