エッセイスト 小島慶子
エッセイスト 小島慶子
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 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 先日、パースの空港まで見送りに来てくれた高校生の息子に話しました。「私は毎度自腹で日本とオーストラリアを往復する暮らしを10年近く続けているが、つくづく身にしみてわかったことがある。現代社会で最もあからさまな階級社会の一つが機内なのだよ」と。冗談半分ですが実感がこもっています。座席のクラスやマイレージ会員のステージによって、扱いが異なるのが空の旅。「高い身分」のお客にはいろんな特権があります。優先搭乗、ラウンジの使用など。富裕層や、会社の経費でビジネスクラスに乗る出張族にとっては簡単でしょうが、個人旅行の「平民」が自力で身分を上げていくのはかなり大変です。私も決まった航空会社を使い、エコノミークラスのチケットと普段の買い物でコツコツとマイレージを貯め、何年かしてついに会員専用ラウンジを使えるようになった時は「ここまでよく頑張った」と感激したものです。マイレージで座席をアップグレードできた時の達成感と言ったら。しかしそこで知ったのは、同じ路線の乗員の態度が、クラスによって全然違うという現実でした。いつもは不機嫌で邪険な乗員さんが、カーテン一枚隔てるとこんなに別人のようににこやかになるのか。もちろん航空会社によるでしょうが、実に寒々しい気持ちになりました。

“階級制”の機内だが、「機内食なし」など環境配慮の選択肢も出てきた(写真:gettyimages)
“階級制”の機内だが、「機内食なし」など環境配慮の選択肢も出てきた(写真:gettyimages)

 コロナ禍を経て、使う航空会社が変わり、今はまた「平民」からのスタートです。LCCにも乗ります。が、特に困ることはありません。そう考えると、あの「特権」って、なんなのでしょう。むしろ必要なサービスだけをオプション追加できる方が合理的です。最近は従来の航空会社でもフードロスを減らすため機内食の軽食化が進み、機内食不要も選択できるとか。空の旅のサービスは古典的なザ・階級制から、環境配慮や選択肢の多様化へと幅を広げつつあるのかもしれません。

◎小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。寄付サイト「ひとりじゃないよPJ」呼びかけ人。

AERA 2023年5月1-8日合併号