ドイツから帰国した皇太子さま(現・天皇陛下)を出迎える雅子さまと愛子さま。手前に見えるのが十六葉八重表菊の菊花紋章を白い枠で囲んだ紅色の「皇太子旗」=2011年6月25日、東京・元赤坂の東宮御所、JMPA
ドイツから帰国した皇太子さま(現・天皇陛下)を出迎える雅子さまと愛子さま。手前に見えるのが十六葉八重表菊の菊花紋章を白い枠で囲んだ紅色の「皇太子旗」=2011年6月25日、東京・元赤坂の東宮御所、JMPA

 ちなみに、御料車に掲げる「天皇旗」は、縦20センチ、横30センチほどのサイズ。錦の織物だけに、制作費も近年は、1枚およそ30万円程度となかなかの値段。

 一方で、車のボンネットやときには船などにも掲げるため、耐久性との闘いでもあったようだ。

 たとえば、1912(明治45)年9月29日付の朝日新聞に掲載された「皇太子旗新成」という記事では、〈十分に風力に堪へ得(う)べきよう研究を重ねたる〉結果、従来とは異なる皇国織という方法で「皇太子旗」を製織(せいしょく)したとある。

「昭和の時代は、昭和天皇の御料車が高速道路に乗る度に『天皇旗』を外し、一般道路に戻るとまたつけていた聞いたことがあります」(当時の宮内庁職員)

 高速道路上で掲げて走行することによるダメージを受けないように、という配慮だったのかもしれない。

「天皇旗」には、雨用もあるようで、先の西浦さんもこんな思い出がある。

 東日本大震災からしばらく経った時期、当時の天皇、皇后両陛下(現・上皇ご夫妻)が仙台にお見舞いに訪れたことがあった。

「私はこのとき仙台に住んでおり、重厚な『天皇旗』を写真におさめたいと道端で奉迎の列に並んでいました。その日は、天候があまりよくなかったためか、錦織の生地ではなく、化繊製。天皇旗って錦織製だけではないのか、とすこし驚いたことを覚えています」 

「第50回フローレンス・ナイチンゲール記章」授与式の会場に到着し、にこやかにほほ笑む皇后雅子さま=2025年7月31日午後1時45分、東京都港区、JMPA
「第50回フローレンス・ナイチンゲール記章」授与式の会場に到着し、にこやかにほほ笑む皇后雅子さま=2025年7月31日午後1時45分、東京都港区、JMPA

 皇室の旗章は、天皇や皇族方のお車であることを人びとに示すもの。

「フローレンス・ナイチンゲール記章」の授賞式となった7月31日は、夏空が広がる快晴。紅色の「皇后旗」がたなびく御料車から優雅に降りた雅子さまは、皇后としての存在感を人びとに示した。

(AERA 編集部・永井貴子)

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