
ちなみに、御料車に掲げる「天皇旗」は、縦20センチ、横30センチほどのサイズ。錦の織物だけに、制作費も近年は、1枚およそ30万円程度となかなかの値段。
一方で、車のボンネットやときには船などにも掲げるため、耐久性との闘いでもあったようだ。
たとえば、1912(明治45)年9月29日付の朝日新聞に掲載された「皇太子旗新成」という記事では、〈十分に風力に堪へ得(う)べきよう研究を重ねたる〉結果、従来とは異なる皇国織という方法で「皇太子旗」を製織(せいしょく)したとある。
「昭和の時代は、昭和天皇の御料車が高速道路に乗る度に『天皇旗』を外し、一般道路に戻るとまたつけていた聞いたことがあります」(当時の宮内庁職員)
高速道路上で掲げて走行することによるダメージを受けないように、という配慮だったのかもしれない。
「天皇旗」には、雨用もあるようで、先の西浦さんもこんな思い出がある。
東日本大震災からしばらく経った時期、当時の天皇、皇后両陛下(現・上皇ご夫妻)が仙台にお見舞いに訪れたことがあった。
「私はこのとき仙台に住んでおり、重厚な『天皇旗』を写真におさめたいと道端で奉迎の列に並んでいました。その日は、天候があまりよくなかったためか、錦織の生地ではなく、化繊製。天皇旗って錦織製だけではないのか、とすこし驚いたことを覚えています」

皇室の旗章は、天皇や皇族方のお車であることを人びとに示すもの。
「フローレンス・ナイチンゲール記章」の授賞式となった7月31日は、夏空が広がる快晴。紅色の「皇后旗」がたなびく御料車から優雅に降りた雅子さまは、皇后としての存在感を人びとに示した。
(AERA 編集部・永井貴子)