『富江』1986年に執筆された伊藤潤二さんのデビュー作。何度殺されても蘇る魔性の美少女・富江のメイクやコスプレをした画像がSNSでも大人気だ(illustration ジェイアイ/朝日新聞出版)
『富江』1986年に執筆された伊藤潤二さんのデビュー作。何度殺されても蘇る魔性の美少女・富江のメイクやコスプレをした画像がSNSでも大人気だ(illustration ジェイアイ/朝日新聞出版)
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 米・アイズナー賞の殿堂入りを果たしたホラー漫画家の伊藤潤二さん(61)。世界を席巻し続ける作品のアイデアはどこから生まれるのか。AERA 2025年8月4日号より。

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「本当に光栄です。今まで4回も賞をいただいていたので、こんなにもらっちゃっていいのかな、もう思い残すことはないかなって」とアイズナー賞殿堂入りの喜びを語る伊藤潤二さん。“漫画界のアカデミー賞”といわれる同賞の殿堂入りは日本人では手塚治虫、大友克洋らに続く9人目だ。

 1986年に執筆したデビュー作『富江』から一貫して精密で美しい絵と独特のホラー表現で人々を魅了してきた伊藤さん。その作品が近年、海外で注目を集めた理由のひとつにSNSがある。『富江』や『うずまき』など美少女の顔が変化(へんげ)する印象的な場面がミームとして世界で拡散されたのだ。

幅広い層の心をつかむ

「インパクトのある一枚の絵で魅せる、ということをずっとやってきたので、ミームで使われやすかったのかなと思います。ただ私、デビュー当時からしばらく『おじいさんが描いている』と思われていたらしくて(笑)。絵柄が古いからだと思いますが、まあ最初から古ければもうそれ以上、古くならないですしね」

 いやいや世界観は変わらずとも、タッチや線は時代とともにより美しく進化している。ゲームクリエイターの小島秀夫や映画監督のギレルモ・デル・トロなどもファンを公言し、昨年から全国を巡回中の展覧会「伊藤潤二展 誘惑」も大盛況だ。デビュー時のファンから令和のZ世代まで幅広い層の心をリアルタイムでつかんでいることに驚かされる。

「漫画を描き始めたころからなるべく長く読んでもらえるものを目指して描いてきました。ストーリーにしても絵にしてもできるだけ妥協せずに『残るものにしたい』と」

 締め切りまでにどうしても描ききれなかった部分は単行本になる際に納得できるまで加筆するという。

いとう・じゅんじ/1963年、岐阜県出身。2019年に『フランケンシュタイン』、21年に『地獄星レミナ』『伊藤潤二短編集BEST OF BEST』、22年に『死びとの恋わずらい』でアイズナー賞を4度受賞(写真:写真映像部・東川哲也)
いとう・じゅんじ/1963年、岐阜県出身。2019年に『フランケンシュタイン』、21年に『地獄星レミナ』『伊藤潤二短編集BEST OF BEST』、22年に『死びとの恋わずらい』でアイズナー賞を4度受賞(写真:写真映像部・東川哲也)
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