毎朝、彼と一緒にご飯を食べる

 今は、シェアハウスに住んでいたころに知り合い、付き合って9年ほどになる男性と平穏な暮らしをしている。

「毎朝、彼と一緒にご飯を食べるんです。その時間が尊いなと思うし、この人のことを傷つけたくないと思う。当たり前のことは当たり前じゃないということを、忘れないようにしようとは思います」

 食事を終えると彼は仕事へ行き、桃奈さんは部屋で内職の仕事をしながら家事などをこなす。外の空気を吸いに、毎日1時間は散歩へ出かけるという。

あとは私が変わるだけ

「傍から見たら、めちゃめちゃ穏やかなおばあちゃんみたいな生活ですよね。過食嘔吐さえなければ、ハッピーな環境なんです。私のことを悪く言う人もいないし、攻撃してくるような人とも出会わない。こんなに守られているのだから、あとは私が変わるだけ」

 だが、それが難しいのだ。

「本当は心地いいはずなのに、自分で自分の首を絞めている感じがある。せっかく今こうして手に入れてるものが素晴らしいのに、その良さに気づいていながら、受け止めきれない自分がいるんですよね」

 もしも、摂食障害を克服したら、桃奈さんは何をしたいだろう。 

「自分がつらかったことを、他の人には味わってほしくないから、自分の経験を使って誰かに『大丈夫』ということを言ってあげたいんです。そのためにも、まずは早く自分が大丈夫にならなきゃいけない。大丈夫じゃない人が、何を言っても説得力がないから。だから、自分のために治すっていうのもあるけど、その先の誰かのために良くなりたい」

 桃奈さんの心は揺らいでいたが、それでも、ゆっくりと前に進んでいるように感じた。

(ライター インベカヲリ☆)

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