いまだ動かないみずほFGが慎重な姿勢を取らざるをえない事情

 大きく先行している「Olive」陣営も、今年5月に三井住友カードとソフトバンクとの包括的な業務提携で合意し、VポイントとPayPayポイントとの相互交換が可能になると発表した。今までVポイント経済圏はQRコード決済に対応しておらず、弱点の補強に動いたわけだ。

 残るメガバンクの一角であるみずほフィナンシャルグループは、今のところ「Olive」や「エムット」に対抗するようなサービスを打ち出していない。既存サービスの「みずほマイレージクラブ」をリニューアルし、今年4月中旬から「みずほポイントモール」を開始した程度にとどまっている。みずほ銀行のサービス利用に応じて、PayPayポイントや楽天ポイント、dポイントに交換可能な「みずほポイント」が貯まるというものだ。

「今後、具体的な対抗策を打ってくる可能性はありますが、みずほFGの場合は過去にシステム障害でATMの稼働停止や振り込みエラーなどの騒動が発生したこともあり、MUFG以上に慎重な姿勢を取らざるをえないでしょう」(同)

リテールは極力セルフサービスに振り分ける戦略との側面も?

 こうしてメガバンクが利便性の高い新たなサービスを提供することは、私たち一般のユーザーにとっては大きなメリットとなってくるだろう。もっとも、金融機関側の視点に立つと、秘められた思惑が浮き彫りになってくるという。事業構想大学院大学の特任教授で、金融コンサルティングを展開するマリブジャパン代表取締役の高橋克英さんは述べる。

「MUFGの最終利益は1.8兆円と過去最高ですが、その稼ぎにリテール(個人)部門はさほど貢献していないのも確かです。便利なアプリなどを通じてリテールの顧客はオンライン上に振り分けつつ、引き続き富裕層向けや法人向けのビジネスに本腰を入れていきたいというのが本音なのかもしれません」

 簡単な操作で決済や様々な手続きが完結するので、「Olive」をはじめとする新サービスは顧客満足度が高いだろう。だが、金融機関側が極力手を煩わせなくてすむセルフサービスの仕掛けになっているものだとも言える。

 コストと手間はできるだけ抑えるというのが時代の潮流だろう。その一例とも言えるのがATM網の規模縮小トレンドだ。多くの銀行が設置台数の削減を進めてきたが、メガバンク3行がATM共同運営に向けて具体的な検討を行っているという。キャッシュレス化の流れもあるが、維持管理のコストを削減するのがその大きな狙いだ。極端な話、メガバンク3行のATM総数が今の3分の1以下になる日が訪れるかもしれない。

(金融ジャーナリスト 大西洋平)

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