延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー (photo by K.KURIGAMI)
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 TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。「渡辺徹さん」について。

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 3月28日の朝は雨だった。懐かしい夢で目が覚めた。「おはよう、早く起きて。朝だよ!」

 ベッドから起き上がり歯を磨いた。声は駅へ急ぐ僕を先回りしてホームで待っている。「早く、早く、遅れるよ」

 声の持ち主は昨年亡くなった徹こと俳優渡辺徹さんだった。入院から1週間余りで急逝してしまったのがショックで、文学座から送られてきた「お別れの会」の封筒を胸ポケットに、あろうことか1カ月早く間違えて2月の寒い時期に喪服で会場のグランドプリンスホテル新高輪に行き、人気(ひとけ)のない会場で寂しさを味わった僕を天国から眺め、「今日だよ、今度は間違えないで」と教えてくれたのかもしれない。

 色とりどりの花で埋め尽くされた祭壇に笑顔の徹の写真があった。中村雅俊さん以外存じ上げる方はいず、参列者に交じって生前の彼の舞台映像や思い出の写真をひとりで眺めていた。

 徹との出会いは1983年3月。40年前だ。毎週日曜放送の「グリコ ひとつぶの青春」という番組だった。入社2年目のAD(アシスタント・ディレクター)だった僕はディレクターと出演交渉に文学座に出向いた。江崎グリコのCMキャラクターがパーソナリティを務めることになっていて、その前が松田聖子さんだった。風格ある木造の文学座では奈良さんという角刈りの、滅多に笑わなそうなマネージャーが待っていて「徹をよろしくお願いします」

 徹はTVドラマ「太陽にほえろ!」のラガー刑事を演じ、『約束』の大ヒットで飛ぶ鳥を落とす勢いだった。「太陽にほえろ!」のロケから駆け付けるなり、ボス役石原裕次郎さんや露口茂さんの物まねをしてくれたり、収録を終えると局から飛び出て、TBSの「ザ・ベストテン」に出演したり、彼の姿を観ない日はなかった。携帯のない頃だったからどう連絡しあったのか不思議だが、毎週のように会った。徹は売れたら買うと決めていたという赤いフェアレディZに乗っていた。お互いに20代だったからじゃれ合ってばかり。高校時代、茨城・古河から原宿に出かけ「せっかく買ったジャンパーを着て帰ったら田舎に着くなり肩に鳥の糞(ふん)が落ちてさー」と笑わせてくれた。

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